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ケルトの笛 インタビュー

ロイ・キアン(Rui Quián)

ガリシアの横笛の伝統

2017年7月下旬、ガリシアの横笛requinta (レキンタ)の職人Rui Quián (ロイ・キアン)氏を訪ねました。
彼の工房はガリシア南部の街Vigo (ビーゴ)の郊外にあります。
Quián氏はレキンタなど横笛類とガイタを製作しています。

また、「レキンタ」については、こちらのページで詳しく解説しています!

※左枠:インタビュアー 右枠:ロイ・キアン

Quián氏について

Quián氏は1974年にビーゴに生まれました。
1992年18歳の時にバンドTreixaduraのガイタ奏者である
Xaquín Xesteira(シャキン・シェステイラ)氏に師事してガイタ演奏を学びました。
やがてアイルランド音楽にも興味を持ち始めアイルランドのDesi Seery(デジ・シーリー)氏が製作したポリマー製のアイリッシュ・フルートでアイルランド音楽を演奏し始めました。
同じころガリシアにも横笛の伝統があることを知り、1997年23歳の頃にXosé Liz(ショセ・リス)氏に師事しレキンタを演奏し始めました。
1999年~2004年にはビーゴの市立工芸学校(Escola de Artes e Oficios英訳:School of Arts and Trades)の楽器制作コースでAntón Corral (アントン・コラル) 氏のもとで管楽器制作を学び、2004年に独立、ビーゴに工房を設立しました。
Quián氏は楽器製作の傍らビーゴで伝統音楽を教え演奏活動もしています。
アイルランド音楽は現在でも演奏しており、ビーゴでは数少ないガリシア音楽とアイルランド音楽の両方を演奏するフルート奏者です。
Quián氏はアイルランドを頻繁に訪れており、前年の2016年にはカウンティー・クレアのWillie Clancy Summer Schoolに参加しイリアン・パイプスのリード製作を学びました。

レキンタとは

レキンタはアイリッシュ・フルートと同じように硬い木で作られた6つ孔の横笛で、ガリシアの伝統音楽で演奏されています。
かつてはガイタ奏者になることを目指す者が最初に習う楽器としての役割として用いられたほか、現代ではGaita (ガイタ、ガリシアのバグパイプ)との合奏に用いられ、調子はF管とG管が一般的です。
レキンタの演奏はガリシア中西部、中南西部で盛んです。

レキンタの歴史

Quián氏はガリシアにおける横笛の歴史を以下のように説明しました(所説あります)。
ヨーロッパにおける横笛の歴史は古代にさかのぼることができますが、現代のレキンタに直接関わりのある出来事として、19世紀初頭のフランスのナポレオンによる半島戦争があります。
現代のフルートはC管のコンサート・フルートとその1オクターブ上のD管のピッコロとがありますが、当時のフランスにはその中間の音域のものも多数ありました。
ガリシアに侵攻したフランス人によってもたらされたF管(アルト・リコーダーとほぼ音域)のフルートは、ガイタの調であるBb管の5度上の音域であり、ガイタと容易に合奏することができたため、ガリシアの中南部に定着し伝統となって受け継がれました。
ガリシア中南部Ourense (オウレンセ)のバグパイプ学校には、1800年代のレキンタが保存・展示されています。

※当時のガイタの音程は定まっておらず、地域や職人によって異なっていましたが、BからBbの間だったと言われています。
B調のガイタと合奏するためには、F管のフルートのチューニングスライドを極端に詰めて、F#管のようにして演奏する必要がありました。

レキンタの名前の由来

スペインではrequintaは一般的に通常のものよりも小型のクラリネットを指します。
また、南米ではrequinto (レキント)とは小型のギターを意味します。
レキンタの名前が持つ意味について、ガリシアの伝統音楽を研究する日本人Tominho氏は以下のように述べています。
『requintaのreは「再び、もう一度」、quinto/quintaは「5つ目の」という序数で、意味としては「元々あるものを再び5度音を高くする」と言う意味です。
それが転じて「高い音」になり、楽器が高くなるとサイズが小さくなるので「小さい」という意味になったのでしょう。
ちなみに、ガイタでrequinteoというと、高音域、特に2オクターブ目の音を鳴らすことを言い、この奏法はガリシアの東部からアストゥリアスにかけて観察されると言われています。
(例: Desiderio Sampayo)』
Quián氏はアイリッシュ・フルートと同じ長くD管のフルートや、ピッコロと同じC管の短いフルートも製作していますが、長いフルートはレキンタとは呼ばずコンサート・フルートと呼び、短いフルートはピンファノ (ピッコロ)またはスペイン語でFlautín (短いフルート)と呼びます。
レキンタとは伝統的にはF#管、たまにF管、稀にG管で、かつ5本継ぎで足部管にキーが1つ付いたものを指します。

現代のレキンタづくり

レキンタは19世紀後半からア・エストラーダのガルシア・デ・リオボが製作していましたが、それ以外の方法でレキンタを手に入れるにはフランスで作られた昔のフルートを骨とう品として手に入れる以外ありませんでした。
それらのフルートは音程が悪く、音量も小さく、必ずしもガイタとの合奏に適しているわけではありませんでした。
20世紀後半ガリシアの伝統楽器職人Antón Corral(アントン・コラル)氏は数多くある楽器製作の中でレキンタも製作し、レキンタが知られるひとつのきっかけとなりました。
現在Corral氏は現役を退き、その弟子であるMiguel Mosquera (ミゲル・モスケラ)氏、Oli Xiradez (オリ・シラルデス)氏、Roi Quián氏の三名がレキンタを専門的に作るほか、若手の製作者も育っています。

アイリッシュ・フルートとの違い

19世紀ヨーロッパにおける主なフルート生産国は、イギリス、ドイツ、フランスでした。
イギリスのフルート主にロンドンで作られ、大きな内径と大きな指孔を特徴としていました。
現代の「アイリッシュ・フルート」はロンドンの18世紀のフルートをルーツにしており、引き締まった太く大きな音色が特徴です。
一方でレキンタはスペインの隣国フランスから導入された右小指で操作するキーが1つだけ付いたバロック・フルートをルーツにしており、小さな指孔を備え甘く好き通った音色でした。
Quián氏は自身がアイリッシュ・フルートでアイルランド音楽を演奏するという背景から、フルート製作にアイリッシュ・フルートの影響を受けたことについて言及しています。
そのため、Quián氏のレキンタはほかのレキンタよりも大きな内径と大きな指孔を持ったフルートが特徴です。
レキンタとアイリッシュ・フルートを比較した際、設計上の違いは楽器の定義に含まれておらず、Quián氏はFまたはG管のものでガリシア音楽に用いられる場合はレキンタ、D管のものをアイリッシュ・フルートとしているようです。
今後はアイリッシュ・フルートに似た、音量が大きなレキンタが一般的となる可能性もあります。

Quián氏は先述の通りD管のフルートも製作していますが、フルートの内部の空洞を開ける器具リーマーは、F管のレキンタとD管のコンサート・フルートでは部分的には同じものを使っており (レキンタの左手管とフルートの右手管)、結果的に両者のテーパー (しぼり)が同じ角度になるように作っています。

レキンタの音程

レキンタは通常、ガイタの5度上の音程のものが使われます。
例えば伝統的なBb管ガイタに合わせるためにはF管を用い、少し高めのC管のガイタに合わせるにはG管を用います。
19世紀の北中西部で一般的だったガイタはスコットランドのハイランド・パイプスや19世紀のアイルランドのイリアン・パイプスと同じくBb管でしたが、現代に近づくにつれて音程は上がる傾向にあり、一時はCまで上がってきましたが、近年はBb調に再び回帰するようになりました。
現代のガリシアの音楽は同主調で転調し (例えばCメジャーとCマイナー)、主音の半音下の音程 (C調であればBナチュラル)を必要とするため、フルートにおいては主音を左手3つの指孔を閉じた音として始めるのが合理的な運指となります。
つまりD管フルートで例えると第一オクターブのGから始まるGメジャーとGマイナーを演奏し、主音の半音下のF#を使うということです。
これはフルートが最もよく響く音域でもあり、ガイタと演奏する際にも音量で負けることがありません。
また、さらにその1オクターブ上で演奏すれば、ガイタの1オクターブ上の音域で演奏することとなり、いっそうガイタより前に出ることができます。
しかし、レキンタはトラヴェルソのようにクロスフィンガリングで半音を得ることが難しく、また半音が出たとしても暗く弱々しい音になってしまいます。
それは右手小指(D管フルートであればEb)、右手薬指 (同Fナチュラル)の2つのキーを取り付けることで回避することができます。

F管とG管のレキンタ

現代のガイタはC管とBb管が主に用いられます。
つまり、演奏する調はC/CmまたはBb/Bbmとなるわけですが、G管のレキンタであればC/Cmは容易なものの(D管で言うところのGとGm)、BbとBbmは困難です(同じくD管で言うところのFとFm)。
ですが、F管のレキンタであればそれぞれD管のフルートで言うところのA/AmとG/Gmとなり、それほど困難ではありません。
ガイタに合わせてGとFの2管のレキンタを使い分けることができれば良いのですが、もし1本のレキンタしか選べないのであれば、F管のレキンタが、どちらの調のガイタにも対応ができ汎用性が高いということになります。
その場合、先ほどの2つのキーに加えて、左手小指用のキー(D管フルートでのG#)をつけておけば、C管ガイタと合奏する場合に便利ということになります (D管フルートでのA調の演奏と同じことになるため)。

C管の笛

Quián氏はほかにC管のピッコロ (フラウティン)も作っています。
ピッコロはC管のガイタと合わせる際に、ピッコロの第2オクターブ目のCから演奏することで、ガイタの1オクターブ上の音域で演奏でき、ガイタに負けない音量を得ることができます。
また一方で、伝統的な楽器ではありませんが、コンサート・フルートのC管も作っており、こちらは、第一オクターブで演奏することで、ガイタの1オクターブ下の音域で演奏でき、マイクを使えば、低音を担当できて良い効果が生まれるとのことでした。

現代ガリシア音楽におけるレキンタの位置づけ

先述のとおりレキンタはガリシアの中南部で限定的に演奏されており、またかつてはガイタ奏者へのステップアップのための楽器や持ち替え楽器という立場であったため、ガリシア音楽全体の中では必ずしも地位が高い楽器とは言えません。
例えばアイルランド音楽であればアイリッシュ・フルートの専門奏者は一般的に存在しますが、ガリシア音楽においてはガイタ奏者が兼任することがほとんどです。
しかし、近年のケルト音楽ブームの影響を受けアイリッシュ・フルートへの注目が高まる中、今後レキンタを専門とする奏者が現れたり、レキンタによるソロCDが発表されることも期待できるでしょう。
レキンタはガリシア音楽の伝統のひとつではありますが、ほかのケルト地域のフルート音楽の影響を受け、将来的に大きく飛躍する可能性を備えています。

Roi Quián氏のレキンタおよびコンサート・フルートの特徴

Quián氏のフルートは一般的なアイリッシュ・フルートと同じ4本継ぎですが、右手管と足部管が一体となった3本継ぎも製作しています。
また、キーは一般的なスプリングが外に出たものではなく、キーの下に内蔵されて見えなくなったデザインで作っています。
これは、友人であるアイリッシュ・フルート製作者のHammy Hamilton氏のデザインを踏襲したものだそうです。
レキンタ、コンサート・フルートどちらも反応が良く、コンサート・フルートはアイリッシュ・フルートと全く変わらないため、アイルランド音楽の演奏に違和感なく活用することができます。
素材はアフリカン・ブラックウッド、地元ガリシアのボックスウッド、ブラジルのココボロから選ぶことができます。

Roi Quián氏の価格と納期

2017年現在、キーのない楽器は2か月、キーつきの楽器は4か月の納期となります。
価格についてはキーなしD管で500~600ユーロとなります。
詳しくはこちらでご確認ください。

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