4月にセカンドアルバム “Cross The Line” を発表されましたが、まずどういう思いを込めてこのタイトルのアルバムを作ったのか、教えてください。
誰でも「この一線を越えることができれば」とか「あの先に行くことができれば」と思いながらも、なかなか一歩を踏み出せないことってありますよね。
そんな時に背中を押せるような作品になればと思いました。
前回はカバー中心で、自作曲は2曲だけだったので、伝統音楽を出発点としながらも、自分らしいオリジナルな曲を作りたかったんです。
今年のオルティゲイラ・フェスに挑戦することも制作時に考えていたので、現地の人にも受け入れてもらえるような曲を作ろうと。
そこが自分にとっての1つのラインで、それを越えたいという思いもありました。
今まで様々な音楽を聴きいてきたんですが、ガリシアやアイルランドの伝統音楽はもちろんのこと、最近は特にスコティッシュやケープブレトン島のドライブ感溢れる曲などにも影響を受けてきました。
今回はそんな音楽も取り込みたい、そしてまた出来上がった作品を通して、そのルーツにある音楽を知ってもらえれば嬉しいなと。
前回はバウロンがリズムを刻むアコースティックなアレンジでしたが、今回はドラムが入ったバンドサウンドですね。
はい、これはアルバムを作り始める時点で既に決めていたんです。
自分が元ドラマーということもあるんですが。
それに近々、オリジナル曲ではなく、ガリシアの伝統曲だけのCDを作る計画もあって、そっちはアコースティックなものになるでしょうから、それとは対照的なアルバムを作りたかったというのもあります。
ピアノも入れて、ベログエト (注1) のような、新しいバンドサウンドを作ろうと。
確かに今回はベログエトを彷彿とさせる曲がたくさんありますね。
そうですね、Entre O Milloなんかも、アンショ・ピントスがカルロスとやっていた頃に作った伝統曲ですね。
Kick UpやGalician WindにはベログエトのCancro CruやFuscoのフレーズがところどころに出てきますが、フレーズを切り取って、そこから新しい曲に発展させて行くというアプローチだったんですか?
うーん、そういうアプローチを予め決めていたわけではないです。
作る中で入れたくなったというか、聴き過ぎて、影響を受け過ぎなんでしょうね。
でも、そういう作り方があっても面白いですね。
今回は、Cの調が中心だった前作とは対照的に、Bbの曲が中心ですね。
そうなんです。
今のガリシアではC管が最も頻繁に用いられるんですが、今回はスコットランドのグレート・ハイランド・パイプス (GHP) を意識しています。
というと?
自分は元ハイランド・パイパーなんですが、ガイタと両方経験した自分としては、ガイタでGHPの曲を演奏することで、その違いが浮き彫りになるんじゃないかと。
具体的な違いとしては?
GHPはとにかく力強い音が特徴なんですが、ガイタにはその強烈さがないというか、音色が少し柔らかいというか、丸いというか。
かといって、イリアン・パイプスのような澄んだ音でもなく、その中間なんですね。
それにJidandaやHimno Galegoのように、ガイタは半音階が演奏できるので、演奏やアレンジの幅も広がります。
ハイランド・パイパーはGHPだけを演奏するのが普通ですけど、自分としては、ハイランド・パイパーであってもそれにこだわる必要はないと思うんです。
ガイタで演奏するスコティッシュがあってもいい。
そういう意味で、GHP系の曲をガイタで演奏することで、ガイタの魅力にも気づいてもらえたらなあと。
カノンを聴いていて、Kojiさんのストリングスの使い方がちょっとJ-POPっぽいなと思ったんですが…
そうですか? 今回のアルバムは、元々フィドルを入れる予定だったんです。
結局あまり上手くいかずに無くなったんですけど。
でも、確かに伝統音楽やフォークミュージックでは、メロディーを演奏したり、メインの楽器とハモることはあっても、こういうクラシック的な弦の使い方はあまりないですね。
そこが、J-POPっぽく聞こえるんじゃないでしょうか?
Marcha do Entrelazado de Allarizは、カルロス・ヌニェスの壮大なアレンジのイメージが強すぎて、編曲が難しそうですが、彼のアレンジとはまた違う世界感になっていますね。
このアレンジは苦労しましたね。
あの世界感をぶち壊そうとしても、無理なところはありますけど、それでも自分なりのアレンジを提示できたと思います。
夜、広大なサバンナに、生き物が寝静まった後に、何か自分たちとは違う夜行性の存在が動き回る感じを想像しながら作りました。
このホイッスルはジョナサン・スウェインの木製ホイッスルですか?
そうです。
このホイッスルはカルロス・ヌニェスが使っていることで有名ですが、自分が吹くとまた違う音色になるんですよ。
人を選ぶんですね。
でもそれが個性的で面白い。
スウェインと言えば、スペインのカンタブリア州の山奥に、ダビー・ロペスという、見た目がよく似たホイッスルを作っている職人さんがいて、2月にスペインに行った時に工房を訪ねたんですが、彼のホイッスルの方が言うことを聞いてくれます。
でも単なるスウェインのコピーではなくて、音が濃いというか、太くて。
やはりスペインだけあって、ガイタと一緒に演奏できる音量の大きい笛を製作しているんですね。
カルロスも、スウェインが作っていない調の管は、彼のホイッスルを使っているようです。
レコ発のライブでは、スザートも使っていましたよね。
あれはですね、アンショ・ロレンソ (Anxo Lorenzo) が使っているライブ映像を見て使ってみたくなって、ライブ前に購入して試してみました。
やっぱり、プラスチックのものは、安定しているところがいいですね。
気温の変化を受けにくいので。
2月にガリシアへ行かれたということですが、どんな旅になりましたか?
今回はダニエル・ベジョン (注2) という新進気鋭のガイタ奏者に習いに行きました。
前から習いに行こうかとは思っていたんですが、ツアー中だったりして。
でも今回はちょうどレッスンを受けられる時期だったので、思い切ってお願いしました。
今回はどんなレッスンに?
特に指使いですね。
ペチャードという、クロスフィンガリングを用いて独特の装飾音やリズムを作るガリシアの北・中西部特有の奏法や、その運指をいかに現代の曲の演奏に応用するかということを学びました。
クロスフィンガリングの替指を用いて、各音で音量差を一定に保つということもその例です。
ダニエルは伝統音楽だけでなく、モダンな曲やブルースをやってみたり、他の楽器の演奏法をガイタに取り入れたりと、新しいことにどんどん挑戦する人なんです。
そこは、最初に師事したスソ (注3) とは違いました。
彼はとにかく古典的な演奏を教える人でしたから。
(注1) Berrogüetto: ガリシアでは最も有名なフォークバンド。
カルロス・ヌニェスがソロデビュー前に組んでいたMatto Congrioのメンバーが中心となって1995年に結成。
2014年に惜しまれつつ解散。
(注2) Daniel Bellón: 1985年生まれのガイタ奏者。
40以上の伝統音楽コンクールで優勝し、ガリシアで最も受賞数が多い強者。
アコーディオン奏者のディエゴ・マセイラスと共に“BellónMaceiras”で活動中。
(注3) Suso Vaamonde: Vaamonde, Lamas e Romeroで活躍するガイタ奏者。
演奏活動だけでなく教育活動にも力を入れ、教則本も出版。
2017年にはマルティン・コダックス音楽賞を受賞。