音楽のスタイルを言葉で説明するのは難しいと思いますが、スライゴー/ロスコモンのフルートの演奏スタイルを他の地域(クレアやゴールウェイなど)と比べて、説明してくださいませんか。
どういった点が異なっているのでしょうか。
スライゴー/ロスコモンのスタイルは流れるように、されどリズミカルに。
ということが出来ると思います。
スライゴー・スタイルは息継ぎを利用してフレージングをしていますが、もちろん個々のプレイヤーによって違います。
また、ショートロールやロングロールなどの装飾も多用します。
たとえばロジャー・シャーロック Roger Sherlockやシェイマス・タンゼイ Seamus Tanseyの演奏を聞いてみてください。
ロールを多用し、リズミカルでかつ流れるようです。
もう一人例を挙げるとスライゴー州バリモート近くの生まれのジョン・ジョー・ガーディナー John Joe Gardiner (1893-1979)がいます。
録音したCDが出回るようになって、フルート演奏のスタイルは標準化してきていると思います。
ジョシー・マクダモットJosie McDermottの演奏はCD(Darby's Farewell)で聞くことが出来ます。
スライゴー・スタイルの演奏をするすばらしいプレイヤーです。
ゴールウェイのフルートの演奏はとてもスムーズでまるでシルクのようです。
それにたぶん違った曲をやっていると思います。
Paddy Fahyなどの音楽家の影響を受けています。
レイトリムのフルートはスライゴーやロスコモンほど装飾がなく、とても強い息のリズムがあります。
フルートの盛んな地域間の違いを明らかにするのは簡単ではありません。
ゴールウェイ州 Glenamaddy出身のトム・モリス Tom Morris(1889-1958)とレイトリム州のジョン・マッケナ John McKenna(1880-1947)やTom Drumkeerinの間に共通性を聞き取ることも出来ます。
多くのリスナー(私自身も)はあなたとフェリックス・ドーラン Felix Dolan で作ったCDのダンス曲のテンポに心を奪われています。
これらの曲には気持ちよく肩の力を抜いたノリがあり、最近のレコーディングでよく聞かれるがむしゃらなスピードとは気持ちのいいコントラストをなしています。
よりリラックスしたペースで演奏することのメリットについて、何かコメントはありませんか。
ゆっくり演奏するほうが難しいこともあります。
息のコントロールがより必要になってきます。
しかし、それは内部から必然的に起こってくることなのです。
曲を理解するためには、まず曲を感じることが出来なくてはなりません。
それぞれの曲には独特のムードがあります。
元々ゆっくりなものもあるし、速いものもあります。
音楽というものは生気あふれるものでなければならないと思いますが、それは必ずしも速いということではありません。
曲に盛り込まなければならないのはリズムで、曲に高揚感を与えるのはどのようにフレージングするか、装飾をつけるかなのです。
音楽がスピードを上げて大量生産されるなら、意味を失うし、ただの音符の羅列になってしまいます。
私が演奏する速さは、曲のムードや誰と一緒に演奏しているかによっても変わってきます。
もしピーター・ホランPeter Horan や パツィー・ハンリーPatsy Hanleyと一緒に演奏するのなら、少し速くなります。
ダブリンでクレアのミュージシャンと一緒に演奏するときには、ゆっくり演奏する傾向になります。
一人で吹くときにはリラックスしたペースで吹くことが多いです。
それが一番気持ちよく感じられるのです。
売れるCDを作ろうとすると(特にライブで演奏するとき)即効のインパクトを与える必要があると感じるのでしょう。
そのための一番いい方法はスピードで圧倒することだと思います。
一旦速いスピードに慣れてしまうと、遅くするのは難しいのです。
車を運転するのと同じですね。
私は今でも馬や馬車の方がいいですね。
リラックスして演奏すると、その曲の美しさやフレージング、また誰から習ったのか、誰のことを思い起こすのか、等を考える余裕があります。
一緒にCDを作ったフェリックス・ドーランFelix Dolanもリラックスしたタイプの人です。
一緒に楽しく演奏できました。
あなたが吹いているフルートについてお話していただけますか?あなたのCDのライナーノートには古いルーダル&ローズのことが載っています。
Unline headjoint(頭部管に金属のチューブを入れていない)のフルートように聞こえます。
本当に「木製の」音がしますね。
私が吹いているフルートはルーダル&ローズで、チューニングスライドがなくて、すべてが木製の頭部管です。
1820年代中ごろのものです。
元々ヘッドは2つあったのですが、いつの間にか1つは紛失したようです。
チューニングスライドがあったかもしれません。
バーミンガムで手に入れ(いただいたのです)、25年間ずっと同じフルートを吹いています。
本当に木製らしい音色で、とてもソフトです。
他の楽器特にフィドルと相性がいいのです。
O’Donnell’s のホーンパイプでは何ヶ所かでタンギングでトリプレットをしているようなのですが、アイリッシュ・フルートでこのような装飾はあまり聞かないのですが。
多くのアメリカ人はアイリッシュ・フルートやホイッスルではタンギングはしないという誤解をしていますが、これについて何かありませんか。
O’Donnell’sの録音の音は正確にはタンギングではないのです。
のどで出している音です。
これを説明するには、小鳥のさえずりの方法という言い方しか思いつきません。
ジョシー・マクダモットJosie McDermottがフルートでこのやり方をしていて、私がO’Donnell’s のホーンパイプを学んだのは、彼からなのです。
”Fluters of Old Erin”(Viva Voce 002から発売された1920-30年代のフルート、ピッコロ、ホイッスルの録音)のホーンパイプでも同じようなテクニックが使われています。
Dwyer’sというホーンパイプがあって、ティペラリー州のRoscrea出身のウィリアム・カミンズWilliam Cummins (1894-1966)が演奏しています。
彼も同じテクニックを使っていて、これはフルートの傑作です。
あなたに影響を与えたフルート奏者についてお尋ねしたいのですが。
長い間たくさんの音楽を聴いてきたので、それぞれが何らかの形で私に影響を与えてきたと思います。
―しかし何人かの人からは特に大きな影響をもらいました。
ロスコモン州Tulsk出身のフルート、ホイッスル奏者のトム・マクヘイルTom McHale 。
彼はしばらくバーミンガムに住んでいて、特にホイッスルのほうで広く知られていると思います。
でもフルートもすばらしく、実は私が今吹いているフルートは彼が吹いていたものなのです。
マイク・マックヘイルMike McHale というお兄さん(弟?)がいて、Catskills に住んでいる素晴らしい音楽家です。
それからジョシー・マクダモットJosie McDermottも色々と影響を与えてくれ、バーミンガムにツアーで来たときとか、私がお休みにアイルランドに行った時とか、よく聞いたものです。
シェイマス・タンゼイSeamus Tansey ロジャー・シャーロックRoger Sherlock もよく聞きました。
Tanseyの力強い音楽も、Rogerの繊細な変奏も大好きでした。
またずっと年上のトム・モリスTom Morris (Morrison)、ジョン・マッケナJohn McKenna, レイトリムのPackie Duignan もよく聞きました。
フルートを演奏するだけでなく、教えてもおられるのですが、初心者に何かアドバイスはありませんか。
また、経験のある奏者にも何かヒントはないでしょうか。
(1)出来るだけたくさんの演奏を聞いてください。
今売られているCD だけでなく、昔の録音も探してみてください。
再版されているものもたくさんあります。
(2)覚えるときはゆっくり吹いてください。
時間をかけて正確に吹いてください。
あわてて、軽くなぞるようなことはしないでください。
(3)いい音が出せるように集中してください。
たくさん練習してください。
時間がかかります。
でも、急いでどうするのですか?私は25年も吹いていて、今でも学んでいます!
(4)もし新しいフルートを手に入れたら、しっかりとオイリングしてください。
新品のフルートは古いフルートよりも手入れが必要です。
(5)他の人と一緒に演奏するときはチューニングをきちんとしてください。
(6)もっと経験のある方にアドバイスなんてとんでもないです。
私のほうが教えていただきたいぐらいです。
(7)演奏するときには、自分自身に忠実になってください。
誰かを真似しようなんて思ってはダメです。
そんなことでは安心して演奏しておれません。
あなた自身のスタイルを築いていってください。