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インタビュー: 2015年8月
スウェーデンの笛のリヴァイバルは、非常に新しい現象である。
19世紀に一度失われた土着の縦笛演奏の伝統が、1980年代にアッレ・メッレルらによって復興され、その流れを引き継いだのがヨーラン・モンソンだ。
彼は音楽大学でアカデミックにリコーダー演奏を学び、そこで得たテクニックを、伝統音楽の演奏に注いでいる。リコーダーのみならず、さまざまな伝統的な笛を演奏し、新しい音楽を創るパイオニアである。
そんな彼が故郷メーデルパッド地方ハヴェロ村で毎年8月に開催している、フォーク・フルート・アカデミーに参加してきた。
農村のいくつかの家を借り切り、3日間20人ほどの参加者と寝食をともにしながら、4人の講師とともに伝統音楽を学ぶのである。
hatao撮影
※左枠インタビュアー:hatao 右枠:ヨーラン・モンソン
これは新しく考案されたものなのでしょうか?
そうです。
これは見た目はモンマルカ・ピーパ(スウェーデンの木の縦笛)のようでありますが、モンマルカ・ピーパの内径が円筒形なのに対して、これは円錐形です。
そのため、リコーダーと同じクロスフィンガリングが利用でき、半音階に対応していますから、様々な調で演奏することもできます。
ですからスウェーデン音楽に限らず、なんでも演奏できますよ。(と言って、古楽の曲を吹く)
この笛はÄlvshorgspipaと言います。
製作者の住むヨーテボリの地名が由来です。
彼の名前はRagner Arvidssonと言います。
明日ここに来るので、会えますよ。
あなたは、いつからリコーダーを吹き始めたのですか?
スウェーデンでは、学校で9歳か10歳から皆リコーダーを吹きますので、それが最初です。
高校生の頃はドラムを叩いてたんですよね?
はい。
それと、6年間、学校の吹奏楽部でクラリネットも吹いていました。
その後で音楽大学Kappesberg music skolaに進学しました。
2年間、リコーダでクラシック(古楽)を学びました。それから、イギリスのロイヤルアカデミーに4年。
卒業後はクラシックと伝統音楽と両方の分野で演奏活動を始めましたが、そのうち伝統音楽の割合が増えていきました。
伝統音楽に出会ったのはいつですか?
hatao撮影
グンナルさんとはいつからの知り合いだったのですか?
今から15年ほど前(2000年頃)ですね。
大学を卒業した後です。
彼が笛を作り始める前は、笛は手に入りにくいものでしたか?
グンナルが世に出る前には、製作者は1人いるだけでした。
オスカル・ウロフソンOskar Olofssonと言います。
年配で、笛をもともとの伝統的な調子(A=440ではない、半音ほど高いピッチ)で作っていました。
オスカルについては、ぜひマッツ・ベルグルンド(このコースでも講師を務めるフィドル、笛奏者)に聞いてください。
マッツは80年代の笛の復興プロジェクトの張本人ですから。
このフルート・コースにおいて、マッツは重要です。
というのも彼がこの笛を発 見して、オスカルに伝統笛を作るように依頼し、アレ・メッレルとらとともにレコー ディングをした、伝統笛の復興の最初の人だからです。
そして、オスカルが亡くなる前に、グンナルが伝統笛の作り方を学びました。
あなたはどんな曲の場合にリコーダーを、そして伝統笛を使うのですか?
たとえばこのような曲は…(といって吹き始める。おそらくフィドルやニッケル ハルパの曲で、アルペジオが多い)伝統笛には移し替えるのが困難ですから、リコー ダーで吹きます。
こういった曲は、バロック・ポルスカとでも呼ぶべき感じです。
音域は、とても高くまで広がります。
いつも良い音のリコーダーを探してはいますが、なかなか見つかりません。
というのも、伝統音楽には音色が明るすぎるからです。
これ(最初に見せた新しいデザインの笛)は気に入っています。
リコーダーは高音を弱く吹くのに対して、この笛では第2オクターブがパワフルですね。
ダンスにはいいですね。
こういった曲はフィドラーの演奏から学ぶのですか?
はい、私の吹く殆どの曲はフィドラーから学びました。
ですが、こういった曲は…(といって、ヘリエーダルス・ピーパで吹く)もともとスウェーデンの伝統笛で演奏されていた曲です。
一方で、私が伝統笛で吹くこの曲は(リコーダーで吹く)、もともとはフィドルの曲を移し替えたものです。
わかりました、もとから伝統笛で吹かれていた曲は、あなたは同じように伝統笛で吹きたいのですね。
そしてもともと伝統笛の曲でなかったフィドル曲はリコーダーや場合によっては伝統笛でも吹くと。
そうです。
曲によっては、リコーダーよりも伝統笛の方がパーフェクトな曲もあれば、リコーダーでなくては困難な曲もあります。
曲によるのです。
フィドル曲をリコーダーで吹くときは、リコーダーに合うように移調するのですか?
はい、ソロで吹く場合はだいたい、リコーダーで効果的なように移調します。
ですがフィドラーと吹くときは、もちろん彼らはもともとの調で吹きたいでしょうから、こちらから合わせなくてはいけません。
ということは、笛で吹きやすいように移調するのはかまわないのですね?
はい。いいですよ。
フイドラーには何調が一般的ですか?
Dm、D、G、A、Eですね。
E調はリコーダーでは難しいでしょうね。
はい、リコーダーでは運指が複雑になるので、E管の伝統笛を使います。
A管もいいですよ。E管とA管は、フィドラーとの合奏向きですね。
このE管はオスピパですか?
いいえ、ヘリエーダルスピーパです。
オスピパとはヴォイシングが少し違います。
このE管のヘリエーダルスピーパは、あなたがCDでヨンク・ヨーナスを録音した笛ですか?
同じ音がしますね。
はい、そうです。
スウェーデンは広くて南北に長い国ですが、どの地域で特に音楽が盛んなのですか?
スウェーデン全体に音楽が盛んですが、特にダーラナでは盛んですね。
フィドルはもちろん、バグパイプも。ウップランドではニッケルハルパが。
笛は私たちがいるこの地域(ヘリエダーレン)ですね。
スウェーデンではフィドルがとても盛んなので、笛はそれほどではありませんが、これからどんどん増えて行くでしょう。
あなたは曲を学ぶときフィドルの曲を学ぶそうですが、どこの地域のものを取り入れるのですか?
だいたいは、この近辺のフィドラーから学びますね。
私の伝統ですから。
ですが、もちろん全スウェーデンから学ぶことができます。
南や北から来た人と 出会って曲を学ぶのはよくあることです。
スタイルや曲は南北で大きく違いますか?
はい、とても違いますね。
そして、東西でも。
ここで時間となってしまった。
ヨーランは日本に毎年何度か訪れ、関西を中心にコンサートやレッスンを行っている。
また、ヨーランが監修するフォーク・フルート・アカデミー in Japanが毎月大阪のカフェフォーゲル・ブローで練習会を開催しているので、興味のある人はこちらにも参加してほしい。
hatao撮影