現在、カートには商品がありません
カートの中を見る
ご利用ガイド お問合せ

ケルトの映画館

イン・アメリカ 三つの小さな願いごと

映画の基本情報

inamerika
製作:2002年
原題:In America
監督:ジム・シェリダン
出演:パディ・コンシダイン、サマンサ・モートン
ジャンル:ドラマ/実話

ストーリー

アイルランドから夢を求めて海を渡ってきたサリヴァン一家。両親と二人姉妹の仲睦まじい家族は貧乏で苦しい生活でも、新天地での生活をたくましく生き抜いていく。しかし、そんな家族には、一人息子の死という辛い過去があり、その悲劇的な事実が彼らの生活を蝕んでいた。そんなある日、同じアパートに住む「叫ぶ男」との出会いが、一家に思いがけない奇跡と再生をもたらすことになる。

物語の時代

2002年(情報設定は1983年)

ロケーション(撮影した場所)

アイルランド ウィックロウ州 ブレイ(スタジオ)

物語の主な舞台、一家の新しい住まいとなるニューヨークのオンボロアパートのセットが、ここのスタジオに組まれて撮影が行われました。

アイルランド ダブリン州 ダブリン

ニューヨークの屋外シーンのいくつかはダブリンで行い、ニューヨークで撮った映像とつなげています。

アイルランド ダブリン州パーネルストリート

お父さんの意地が炸裂するお祭シーンはこちらで撮影。

登場する土地

ニューヨーク(冒頭だけカナダ)

店長のココが見所♪

この映画は、一見アメリカの映画(タイトルにアメリカついてるからね)と思われますが、アイルランド移民のいろいろなエッセンスが詰め込まれた映画です。

この映画の監督を務めるジム・シェリダンは、アイルランド映画が世界に注目されるようになるきっかけを作った、アイルランド映画界の大ベテラン監督です。

そして、この物語は、監督自身がアメリカに渡ってきた時の状況を監督ご自身と、二人の娘さん(つまりこの映画の姉妹)の3人で書き上げた、半自伝的な映画なんですね。ちなみに映画では子を亡くした両親に焦点が当てられていますが、実際に亡くなられたのは監督自身の弟さんなのです。

そのような個人的な体験を基にしている影響で、映画の舞台は2002年(911以降)ですが、基本的に1983年の情報をベースに再現しています。というのも、1983年を舞台にしてしまうと美術さんの仕事が増えてお金がかさんじゃうからね。(1983年以降に作られたものや建物が使えないので)

この映画には店長的な大きなポイントが4つあります。
それは「移民」「ハロウィーン」「信仰の喪失」「なんとないスピリチュアル感」です。

まずは「移民」について。
詳しくは次の項「店長の早わかり歴史」にまとめますが、80年代のアイルランドは国内が不安定な情勢だったこともあり、多くの移民を生み出しました。

そして、映画冒頭から明らかですが、彼らは合法的にはアメリカに入国していません。
祖国の失業率が高い」程度の理由では合法的に移住する資格が取れないんですね。

続いては「ハロウィーン」です。
実は現在では考えられませんが、1980年代にハロウィーンという行事はアイルランドにはなく、ほとんど知られていませんでした。(意外!)
映画の中に「トリック・オア・トリートって何?」という、今では驚きのセリフがあるのは、そのためです。
当時のアイルランドでは、ハロウィーンに近いイベントの時は、親戚が集まってフルーツでも食べる、みたいな地味な風習しかなかったので、よりイベント性の高い「トリック・オア・トリート」に姉妹は大興奮したわけです。
また、ハロウィーンの文化自体は、ケルト系の風習が起源ですが、死者がハロウィーンの日に地上に帰ってくるお盆的感覚は全くキリスト教的ではありません。(4つめのテーマにもつながります)

 

SBIFFさん(@officialsbiff)が投稿した写真 -

サクサクいきますが、続いては「神への信仰の喪失」です。
敬虔なカトリックの国として有名なアイルランドですが、多くの悲劇を経験する中で、誰よりも神に祈ったけれど、何も改善されず貧窮やつらい出来事だけが残る、今回の映画でいうと一人息子が助からなかった、職がない、そういった凄惨な経験をする率の高い民族です。
なので、敬虔なカトリックの国と言われながらも、個人個人としては、神を「信じられなくなった人」というのが(特に移民の中に)多いのも特徴的です。

そして最後の「なんとないスピリチュアル感」です。
ハロウィーンも、なんとないスピチュアルイベントのひとつですが、不治の病いを患っている「叫ぶ男」がもたらす、どこか魔術的な雰囲気や奇跡、考え方、死生観が、辛い過去に縛られている家族の緊張を少しずつ和らげていきます。
この神の不信仰に対して、精神的な、また宇宙的な壮大な考え方の人に導かれる展開というのは、もうどうしたって「ドルイド」を思い出さざるを得ません。(興味のある方は「ドルイドって何」をご一読ください)

こういったテーマからアイルランド移民の魂や心情、現実なんかをうかがい知ることができますが、これら全てを無視して見ても、ちゃんと見応えのある映画となっています。

特に大きな展開、劇的なシーンをあまり持たない静かな作品ですが、その分、少ない登場人物たちのほんのわずかな心の離れ具合や、誰かに寄り添う瞬間が丁寧に描かれています。

また、全体を通して「トラウマの克服」の大切なパート、「向き合うことの大切さ」が強調されています。子どもさんのいるお父さん、お母さんにぜひ見てほしい一作です。

映画の最初の方で、初めてニューヨークの部屋に入る一家に対し、「なんだお前ら、ポリ公か?」と尋ねるシーンがあります。それに対して「アイルランド人だよ」と返事をすると、すかさず「やっぱりポリ公じゃないか!」というやりとりがあります。
これは「ザ・ガード 西部の相棒」内のコラムにも書きましたが、アイルランド移民が警察官や消防士に多いことに対するエスニックジョークです。

余談ですが、この映画で姉妹を演じている二人は、本当の姉妹です。
また、奥さんを演じたサマンサ・モートン、叫ぶ男を演じたジャイモン・フンスー、そして脚本を書いたシェリダン親子がアカデミー賞にノミネートされました。

店長の早わかり歴史

アイルランドからの移民は、ジャガイモ飢饉の時にピークを迎えた、という話はちょこちょこしてきました。日本でいう「お米」クラスの主作物が何年も収穫できなかった1840年代に、多くのアイルランド人が海を渡りました。
その後、ジャガイモが獲れるようになったあとも、実は移民の波はおさまることを知りませんでした。

そこにはいろいろな理由があるのですが、この映画の舞台となった80年代初頭は、インフレ率15%、失業率17%という過酷な現実に輪をかけて、IRAが主導していた内紛で、アイルランドが一部的に戦争状態になっていた、ということが挙げられます。(インフレ率って何だろう)

ここで少し、興味深い話があります。
1世紀もの間、移民を輩出し続けているアイルランド人は、基本的に先に移民していった親族を頼ることができる、という「不遇の時代を経たがゆえの特権」がありました。

ですが、今回の映画の主人公たちは飢饉とは無縁の大都市(アイルランドではね)首都ダブリンに代々住んでいたため、先に海を渡った親族がいなかったのです。

彼らが海を渡ったのが1983年。(映画の中で重要な役割を果たしているE.T.の公開が82年)

その2年前に、アイルランドでは獄中から英国政府に抗議の意を表すため、ハンガーストライキを実行して、何人ものIRA闘士が死を迎えました。(映画「ハンガー 静かなる抵抗」をご覧ください)

そういった不屈の魂、静かな抵抗を、「死の文化、自ら命を絶つ特異な風習を持つ国アイルランド」という風に捉え、逃げるように移民したアイルランド人も多かったようです。(監督談)

なんだかホロリ、アイリッシュ慕情。

関連映画

「ハンガー 静かなる抵抗」(マイケル・ファスベンダー主演)
「父の祈りを」
「マイ・レフトフット」
「ボクサー」
この三作は同じくジム・シェリダン監督作で、現役世界一の名優ダニエル・デイ=ルイスが主演しています。

 
  • 友だち追加