1952年、アイルランド。未婚のまま妊娠したフィロミナは家を追い出され、修道院で男の子を出産した。しかし、修道院は3歳になったその子を彼女に内緒で養子に出してしまった。
それから50年、息子のことが忘れられない彼女は、娘が偶然出会った元ジャーナリストのマーティンに、息子探しの協力を依頼。
愛する息子に一目会いたい彼女の旅が始まる。
(DVDパッケージより)
アイルランド ティペラリー州 ロスクレア「ショーン・ロス修道院」
アイルランドのど真ん中から、少し右下にずれた辺りです。
マグダレンから注目された、アイランド修道院での人権侵害を描いた映画としては、異例の明るさ、そのコメディ色が特徴的です。
それはひとえに、歴史の闇に翻弄されながらも、人を愛する心(憎まない心)を捨てなかった、主人公のフィロミナの人間性のおかげだと思います。
この映画を見終わったあとは、きっと、これまでよりも少し人に優しくできるようになるんじゃないかと思います。
本作で主人公の相方として、皮肉屋担当の元ジャーナリスト役を演じている多才なコメディアン、スティーブ・クーガンが脚本も担当したことで、この手の映画には珍しい、楽しくて心温まる、見やすい作品になったわけです。
また、こういった題材を扱う場合、いささか過激な加害者(今回でいうカトリック教会)批判が展開されがちですが、そういった難しいことは脇に置いて、「性格が真逆の老女と中年男性の珍道中」が映画のメインになっているので、とってもマイルドな口当たりです。
序盤に少しだけ、アイルランドの美しい田園風景を見ることができます。
アカデミー賞をはじめ、数多くの映画賞にノミネートされた注目作です。
アイルランドは敬虔なカトリックの国です。
お隣イングランドがプロテスタントに改宗したあとも、カトリック信仰を貫き続けています。
ということは、「教義」としては割と厳格だということです。
でも、ご存知のようにアイリッシュは大酒飲みの人たちです。
①酒に呑まれて愚行に及ぶ人がいる。
②厳格に神の教えを守る人がいる。
その結果として、子どもがたくさん増えていきます。(相当省略しましたよ)
また、アイルランドは言うに及ばず、貧しい国でした。
貧窮、でも子だくさん。
ろくに食べられない子どももたくさんいたわけです。
出展 pixabay.com
そんな中、カトリック教会が修道院(女子限定)を「親がいるけど孤児院」みたいな場所として解放し、「寝食の世話をする代わりに、その分だけは働いてね」という決まりを作りました。
子だくさんで生活に困っている親としては、願ってもない話ですが、そこに入るためには、ひとつの条件を満たさなければいけませんでした。
それは「貞節を失った(神の教え的な意味)女性」である、ということです。
つまり、そこに入る女性は、すでにマイナスの状態からスタートしないといけないわけです。
相手がマイナスで、さらに寝食の世話までしてあげる、という構造は、自然と極端化していきます。
言い換えると、「相手のマイナス+寝食の世話」をチャラにするための労働は、年々過酷になっていったそうです。
これが、カトリックの「強制収容所」と呼ばれた所以です。
また「貞節を失った理由」については、問題にされないのも、気の毒さを極めます。(詳しくはヘビーな方の映画「マグダレンの祈り」をご覧ください)