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ボタン・アコーディオン(ダイアトニック式)のキー配列

日本初のケルト音楽専門の楽器通販店「ケルトの笛屋さん」の実店舗オープン、おめでとうございます!

ハタオ氏の高い志で始められたこの事業を、関西のみならず国内の同好の士みんなが協力して盛り上げて行くような未来を強く望んでいます。長年、細々と通販業務の真似事を続けてきた私の夢も託しつつ、店頭にはゆかりの楽器やCD、書籍類も陳列して頂いている事もあり、当店のコラムに時々投稿させて頂く事になりました。拙い文章で僭越ではありますが、伝統音楽に関する様々な事柄をご紹介出来たらと思っています。

先ずは、自分の専門でもあります、ダイアトニック式のボタン・アコーディオンのお話から始めさせて頂きます。ヨーロッパ圏の伝統音楽の場で広く使われているのは、一つのボタンを押した時に蛇腹の開閉(押し引き)で、音の高さが変わるダイアトニックと呼ばれる種類の楽器なのですが、各地域の音楽の特徴に沿って様々なキーの配列があります。

代表的な2列の機種で挙げてみますと、アイルランド伝統音楽には、半音ずらしの2列のシステムB/C, C#/D等が使われますが、お隣のイングランドではモーリスダンスの伴奏等にはD/Gが主流になり、ヨーロッパ大陸ではざっと挙げますと、フランス一C/G、ドイツーC/F、等々、それぞれの列同士が別々になった様な機種が多くなります。同じくこの楽器が広く使用されている中南米の各地でも同様で、半音ずらしの2列のシステムと言うのは珍しい部類に入ります。
19世紀に開発されたアコーディオンですが、元々は1列の押引異音式で様々なキーの楽器が作られていました。音の配列が同じで、日本でも身近な楽器ハーモニカ(ダイアトニック式)を想像して頂けると分かりやすいかと思います。
1列式は現在ではC、D、G等の機種が主になっていますが、やがて複数列の機種が作られる様になると、各地域の音楽に合う組み合わせはそれぞれで異なった事から、色んなキー配列の機種が作られたと推察出来ます。
後に出来た押引同音のクロマチック式(ピアノ鍵盤式&ボタン式)は、半音階的で全ての音域をカバーする事で急速に普及していきますが、B/Cシステムはこれに近い(C列=ハ調、をメインにB列がピアノの黒鍵の役目を果たす)楽器と言えるかも知れません。

今日、アイルランドではこの両者を単にアコーディオンと呼び、1列のダイアトニック式をメロディオンと呼んで区別しているのもその理由からだそうです。

ちなみにメロディオン(melodeon)という呼び名は、英国でのダイアトニック式のボタン・アコーディオンの総称でもあります。またアイルランドではボックス(box)と言う呼び方が、この楽器の愛称として広く知られています。B/C、D/Gと言った呼び方もダイアトニック式ならではの事で、クロマチック式にはありませんが、フランスのミュゼット音楽等で使用される、ボタンの数が多いクロマチック式ボタン・アコーディオンには、キーの配列が二通りあるそうです。
世界的には、現在でもダイアトニック式の方が普及していますが、ここ日本では、鍵盤式、ボタン式共にまだまだクロマチック式の方がポピュラーな傾向があります。

伝統音楽と楽器の結びつきには古来偶然性がつきもので、吹奏楽器系の影響等でD音階が主流のアイルランド音楽の場で、B/C機種が普及していったのも製造面での事情等、最初は恣意的な理由があったと思いますが、2列を行き来する複雑な奏法(クロスフィンガリング)をマスターし、驚異的な演奏テクニックを開発したレジェンド的演奏家達の功労もあって、B/C機種は揺るぎないメインの座を維持しています。
とは言え、単純に1列だけで弾く時の爽快感もダイアトニックならではの醍醐味なので、D音階がメイン列のC#/Dという機種を好む人も多いのですが、伝統音楽教育が行き届いている現代のアイルランドでは、若い人達に「C#/Dって何?」と言われてしまう様な事もあるとの事です。
むしろ日本でボックスを始めようとする人の方が、どちらの機種を選択するか思案にくれる事が多いかも知れません。
自分もよく質問されますが、何も要望がなければB/Cで始められる方が情報面など何かと便利です。
迷われている場合はよく話し合って選んでもらいますが、将来より深くボックス演奏にのめり込むなら、両方備えておくことが不可欠になると思います。また、デ・ダナン、ダービッシュ等が有名ですが、アイルランドでは、全ての楽器のチューニングを半音上げた「Eb」での演奏が好まれる事も多くて、その場合ボックス奏者は、C/C#,または D/D#の楽器で参加します。
ちなみにこの場では笛類もEb管が必要になり。フィドル等弦楽器類は半音チューニングを上げて参加します。今のところ日本国内では、これらのキー配列の楽器を活用出来る場は殆どないと思われます。以上、ダイアトニック式のボタン・アコーディオンにも様々な機種がある事をお話ししましたが、どうかご自分のやりたい音楽に適した楽器を入手するご参考にして頂けたら幸いです。

蛇腹楽器のお話しまた続きます。
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