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アイリッシュ・フルートの歴史
アイルランドの伝統音楽で広くフルートが演奏されるようになったのは、19世紀に入ってからです。それまではフルートは高価でしたから、紳士の楽しみとしてイングランドの上流階級で愛されていました。

19世紀中ごろに機能的なモダン・フルート(ベーム式フルート)が登場し、オーケストラで正式に採用されるようになると、シンプル・システム・フルートはクラシック音楽ではもはや時代遅れの楽器となり、その価値を失っていきました。

こうして木製のフルートが質屋や古道具屋に並ぶようになり、出稼ぎのアイルランド人が買って帰ったことから、アイルランドの伝統音楽でフルートが使われるようになりました。

20世紀初頭には、アイルランドのカウンティ・スライゴーCo.Sligoやカウンティ・ロスコモンCo.Roscommon、カウンティ・リートゥリム Co.Leitrimなど西部で特にフルートが盛んに演奏されるようになり、リートゥリムからアメリカに移民したフルートの達人、John McKennaのSPレコードは現在でも伝統音楽の至宝とされています。
John McKennaの録音
やがて1970年代に自分達の伝統音楽を見直す運動=フォーク・リヴァイバルが起こり、アイリッシュ・フルート奏者を含む多くの伝統音楽のレコードが発売されました。
その中でも最も有名になったのは、現在もバンド「チーフタンズ」で活躍する、マット・モロイ(Matt Molloy)です。
1970年代に一世を風靡したバンドBothy Bandで一躍有名となりました。
しかし、当時はすでにシンプル・システム・フルートを作る工房はもはや存在せず、中古楽器でも状態の良いものを手に入れることは困難でした。
そのため、自身もフルート奏者であったHammy Hamiltonが1970年代からアイルランドでフルートを生産するようになり、彼を筆頭に多くのフルート製作家が誕生、今もその数は増え続けています。これらの工房では、ほとんどの場合、1人~2人の職人が個人事業的に楽器を製作しています。

1980年代になると、アイリッシュ・フルート工房は海外にも広がり、イングランド、フランス、アメリカなどでも設立されました。それとともにプレーヤーの数も増え、世界中で演奏されるようになりました。

現在はアイルランド国内外で優れたフルート工房、フルート奏者が数多く存在し、フルートはフィドルやアコーディオンとともにアイルランド音楽では欠かせない花形楽器となっています。

さらに、アイルランド音楽の影響を受けて、フランスのブルターニュ音楽やスウェーデン音楽など、それまでフルートが使われてこなかった伝統文化にも浸透し、アイルランド人には考え付かないような個性あふれる演奏がされています。

これらの音楽では、アイリッシュ・フルートを使ってはいつものの、もはやアイルランド音楽とは関係がないので、単に「木製フルート」などと呼ばれています。
スウェーデン音楽での木製フルート
フランスのブルターニュ音楽での木製フルート
スペインのアルトゥーアス音楽での木製フルート
カナダのケープ・ブレトン音楽での木製フルート