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マット・モロイのように吹くには

※ この記事は、McNeela Instrumentsの許可を得て記事を翻訳、公開しています。

英語翻訳:村上亮子
 

マット・モロイのようにフルートを吹くには

アイリッシュ・フルートの伝統的な演奏と言うと、すぐに思い浮かぶ名前があります。マット・モロイは誰もが知る名前であり、アイリッシュ・フルートの同義語とも言えるほどです。彼は紛れもなく最も影響力のある伝統的アイルランド音楽の演奏家です。

マット・モロイはアイリッシュ・フルートの演奏を、さらに上の次元まで高めた人です。彼のコスモポリタンなスタイルは今日のアイリッシュ・フルートの演奏で最も広くコピーされているものと言えます。

この革新的な演奏は、アイルランドだけでなく世界中の様々な世代のフルート奏者に影響を与えました。

神がモロイを作り給うた時、その鋳型を残しませんでした... モロイのような人は他にはいないのです。

― シェイマス・タンゼイ Seamus Tansey

しかしマット・モロイの演奏をこれほど特別なものにしているのは何でしょうか。

この記事を読み、彼の特徴的な演奏スタイルやアイルランド伝統音楽へのアプローチを一緒に探ってみましょう。
 

1. 伝統音楽を聞く

優れたアイルランド伝統音楽のミュージシャンに共通して言えることが1つあります。それは彼らが先人たちの音楽を聞いて育ってきたということです。

これらの優れた演奏者は若いころから伝統音楽の中で育ってきました。マット・モロイ自身についていえば、彼はフルート演奏で名高い地域のフルート奏者の家庭に生まれました。

年上の演奏者に出会って学ぶ機会がある時には、貪欲に聞き、できる限り吸収しました。

でも、あなたがロスコモンのフルート奏者の家庭に生まれなかったといって、がっかりすることはありません。今では良質の録音に触れる機会はいくらでもあります。デジタルの時代ですので、ボタン1つで何でも聞けます。

もう1つ、若きマット・モロイにはなかった利点があります。それはマット・モロイのアルバムを聞くことができるということです。


(1)お勧めのアルバム

マット・モロイのアルバムはどれも珠玉のフルート演奏です。デビュー・アルバムは、シンプルに「Matt Molloy」というタイトルで、常に私の心の中に特別な位置を占めています。

1976年にリリースされたこのレコードは、まさに特別なものです。発売されるやいやな、最高のアイリッシュ・フルート奏者としての名を不動のものにしました。演奏家としての並外れた腕前と創造性を示しているだけでなく、将来の可能性にあふれていました。

その後彼が出すアルバムに期待を裏切るものはありませんでしたが、このファースト・アルバム程私を強く動かしたものはありません。聞いた瞬間にすっかり魅了されてしまいました。

今日に至るまで私の一番のお気に入りで、マットの演奏スタイルと技量を惜しみなく表しているのは The Gold Ring です。この有名なジグの演奏で、誰のものが一番好きかと世界中の愛好家に聞いてみてください。みんな同じ返事をすると思います。まあ、聞いてみてください。
 

(2)マットの共演

ソロとして名演奏家であるだけでなく、マットはアイルランド伝統音楽界の優れたミュージシャン達と共演しています。

彼はボシー・バンド The Bothy Bandとチーフタンズ The Chieftainsのメンバーです。アイリッシュ音楽で最も影響力のある2つのバンドです。マットはどちらのグループでも欠くことのできないメンバーで、優れたフルートの腕前だけでなく、広いレパートリーと独創的なアレンジで貢献しています。

マットのアレンジで一番好きなのはThe Strayaway Childです。ボシー・バンドでもチーフタンズでもこの曲をやっていますが、私の意見ではチーフタンズのレコーディングの方が優れています。

彼が生み出す雰囲気を聞いてください。心に染みるフルート・ソロで始まり、曲の流れと共に緊張が高まり、暗い低音を添えて豊かな風景を創り出すのです。
 

 
 

(3)すぐれたアンサンブルへの鍵

マット・モロイとの共演を望む人が多いも当然のことです。少し例をあげるとドーナル・ルニー Donal Lunny、 ポール・ブレイPaul Bray、トミー・ピープルズ Tommy Peoples、ショーン・ケーン Seán Keane、ジョン・カーティー John Carty、アーティー・マクグリン Arty McGlynn等と共に演奏したりレコーディングしたりしています。どれも斬新で心を引きつけるものがあります。

ですからインスピレーションを求めて聞くのにも、この名人の演奏を楽しむにも、聞くべきものはいくらでもあります。私のお気にいりの1曲を聞いてください。ジョン・カーティーとの共演です。
 

 

マットはアンサンブル奏者として優れています。これは最初の頃のドラマティックなソロの才能を見た者には驚きかもしれません。

優れたデュオやアンサンブルの演奏で大切なことが1つあります。― 仲間の演奏を聞く能力です。自分の楽器を上手に手繰ることはもちろん大切ですが、グループで演奏する時には身勝手はよくないのです。

誰かと一緒に演奏している時に、他の人とぶつかって何かいいことがあるでしょうか。音楽のためにはなりません。目立ちたいのなら1人で演奏すればいいのです。お互いに音楽で心を通わせ、それでやっていけばいいのです。

― マット・モロイ、Sé Mo Laoch, TG4

時に素晴らしいソロが入ることもダメだと言っているのではありません。バンドにそれぞれの楽器の名手がいるのなら、時々誰かがその腕を披露するのは問題ありません。これは1997年のチーフタンズの動画ですが、マットが素晴らしいソロを披露しています。
 

2. 演奏スタイル

マットのフルートはスライゴー・ロスコモンのスタイルです。

スライゴー・ロスコモンのフルート演奏はスピードが速くロールや装飾を多用しています。装飾の多くは舌ではなく指で行います。

フレーズは概して長く、それぞれのフレーズの最初は強く吹いて強調しています。その結果リズミカルでかつ滑らかなスタイルになります。これらのフレーズはメロディックな変奏や装飾で飾られ、滑らかで安定した音色に仕上がっています。

このスライゴー・ロスコモン・スタイルについての記述は、マット・モロイの演奏スタイルをかなり正確に描写したものになりますが、彼の演奏は独創的でユニークなものでもあります。彼のスタイルは聞けばすぐにわかりますし、他のスライゴー・ロスコモンのフルート奏者と聞き分けることができます。

ではマットの演奏を特別なものにしているのは何でしょうか。


(1)新しいテクニック

マットが生み出したフルートのテクニックはいくつもあります。主にフィドルやイリアンパイプスの演奏から借用したものです。

世界中でコピーされ、今ではアイリッシュ・フルートの基本の1つになったテクニックと言えば、ハードDです。マットは低いDを強く吹くことによって、イリアンパイプスの力強い音を真似て、倍音や刺激の多いざらざらした感じの音を得ようとしました。

しかしこの独特な音を出そうとする時には、1つ覚えておいてほしいことがあります。

決してイリアンパイプスのような音はしません。アンブシュアで発音する楽器と違ってパイプはリードを使っているのです。ですから期待するほどはじけた音はしません。

― マット・モロイ

正確な音に近づく手近な方法はマット・モロイのアンブシュアを真似てみることです。上下の唇を少し緊張させ、下唇がフルートにまっすぐ平らについていますか?口の端の筋肉を感じてください。

もっと丸いアンブシュアで吹く人はこの力強い音色に到達するのが難しいかもしれません。


(2) 独創的な装飾

マットはまたフルートの装飾法にクランを導入しました。

クランもパイプのテクニックで、一連の素早い指の動きを伴う装飾音です。特に最低音のDを装飾するために使われます。この素早い指の動きは優れた技術と巧妙な動きを要します。

クランは最低音のDの装飾として生み出されました。低いDではロールが使えません。その下の音がないのでタップができないからです。代わりにこの一連のカットが考案され、ますます精巧になってきています。

クランをするにはいくつか方法があります。一番単純な形は低いDを吹いて、それからロールをするような感じで、FとEの指でカットします。タップの代わりにもう1つカットをするのです。

マット・モロイはクランの名手です。下のThe Bucks of Oranmoreの印象的な演奏を聞いて、ハードDやクランが実際に使われているのを聞いてください。この動画ではE♭管を吹いているので、実際はハードE♭ですが。 
 

 

(3)独特な持ち味

マットの演奏には技術的なスキル以上のものがあります。

他の優れた音楽家と同じようにマットも生まれつきの音楽性を持っています。彼の演奏は聞くものを魅了し夢中にさせます。音楽との深い個人的なつながりが、彼の演奏するあらゆる曲に明らかに表れています。

その音楽性がなければ、演奏は浅いものになってしまうでしょう。

伝統音楽に関する限り、本来の芸術の形はソロです。あなたがメロディー・ラインに加えることができるのは解釈で…その作品の解釈にすべてがかかっているのです。

私がするのと同じようにやってもダメです。あるいは私が誰かほかの人を真似てもダメです。あなたはあなた自身の足跡をそこに残しておく必要があります。よくも悪くも、少なくともそれは「あなた」なのです。
あなたそのものなのです。そこにすべてがかかってきます。

― マット・モロイ A Guide to the Irish Flute

マット自身の言葉にあるように、音楽に自分自身の足跡を残すことが大切です。

現代の多くのフルート奏者はマット・モロイにそっくりだと、時に批判を込めて言われます。それは称賛でもあります。この伝説的なフルート奏者と同等だと見なされるほどの、テクニックと超絶技巧の域に達することは、称賛に値することです。

しかし自分の個性を出すことなく、他の演奏者のスタイルをただ真似したいのなら、音楽とのかかわり方を間違っています。

マットの演奏レベルを目標としましょう。彼の演奏テクニックと装飾の複雑な用法をマスターしましょう。そこからさらに進んで音楽と向き合いましょう。あなた自身のものにするのです。そうすることでミュージシャンとして自立できるのです。
 

3. 練習

天賦の才能に恵まれていて、なおかつ時間をかけて練習するなら、そこに奇跡が起こります。それがマット・モロイなのです。

― マイケル・フラットレイ Michael Flatley

マット・モロイが才能あふれたミュージシャンであることは否定しませんが、私は生まれつきの才能だけを信じているのでもありません。

ごく自然に音楽を習得しているように見える人もいるでしょう。でも進んで練習をする気がないのなら、すぐに行き詰ってしまいます。

練習が完璧を作る!ー 少なくとも練習することで目標に一歩近づくことが出来ます。簡単なことです。

マット・モロイは努力と決意でもって、今の演奏レベルに到達したのです。彼のスキルや技巧的な能力は何年も何年も繰り返すことで強化されたのです。そうでなければクランなどの複雑な装飾をマスターできるでしょうか?

どうすればこの域に達することができるのでしょうか。

日々の練習の習慣を作ることで演奏に劇的な変化が起こります。面倒だと思うかもしれませんが、必ずしも辛いことではありません。

音楽の練習は短時間でいいのです。例えば1日に20~30分の練習は1週間に1度の長い練習よりずっと効果があるのです。

毎日の練習習慣は持久力を増し、体で記憶する助けとなります。指が自由に動くようになります!日々熱中することで曲を覚えやすくなります。

少し説明が必要なら、効果的な練習法をご覧ください。ご自身の効果的な練習習慣を作るのにお役に立つことと思います。
 

4. 持久力を鍛える

アイリッシュ・フルートを演奏するには、特に呼吸に関してスタミナが必要です。

呼吸をコントロールすることはフルート演奏の基本です。どんな管楽器でも呼吸法をマスターすることは上達のための最も重要なステップで、アイリッシュ・フルートも例外ではありません。

優れた演奏を聞くと、奏者が共通して持っているものに気が付くでしょう。肺の力です。マット・モロイの演奏はとても滑らかで、まるで息継ぎをしていないように思えることもあります。

では肺の力を鍛えるにはどうしたらいいでしょうか。

呼吸の訓練は役に立つ訓練法で、呼吸のコントロールを向上させ、肺の容量を増やしてくれます。

覚えておいてください。呼吸は楽器の音色だけでなく、リズムや曲の流れにも影響を及ぼします。呼吸をコントロールすれば、マットが低いDで行っているようなテクニックをマスターする助けとなります。

幾つかのシンプルな練習を日々の練習に組み込むことで、呼吸をコントロールできるようになり、フルート、そして演奏そのものをコントロールできるようになります。

始めるにあたって、いくつか提案をしましょう。フルートとホイッスル上達のための練習とテクニックをご覧ください。

これらの練習をすれば、すぐにフルートが吹けるようになってきますし、5km 走るよりずっと楽です!
 

5. マット・モロイのたくさんのフルート

マットの最初のフルートは父親がニューヨークのピアノ工房ウォーリッツァー Wurlitzersで買ってくれた作者不明のドイツ製のフルートでした。指孔の小さい、やさしい音色のフルートでした。

最初の頃マットはこれをよく吹いていて、ソロ演奏にはふさわしいものでしたが、セッションやケイリーバンドで吹くには音が小さすぎました。

その後ルーダル&ローズ Rudall and Roseのフルートをプレゼントされ、演奏やレコーディング、ボシー・バンド The Bothy Bandのツアーで使いました。


(1)流行を作る

マット・モロイは伝統音楽のミュージシャンの中では、初めてE♭管で演奏した人と言ってもいいかもしれません。E♭のフルートは吹奏楽団で使っていた人から買いました。マットはこのフルートの力強い音色に魅了されましたが、このフルートをどう使ったらいいかは、よくわかっていませんでした。

幸いフィドル奏者のトミー・ピープルズ Tommy Peoples が、マットがこのE♭管吹くのを聞き、その強く明るい音色が気に入りました。それでトミーは自分のフィドルをE♭にチューニングし、2人の音楽はさらに素晴らしいものになりました。

マットはこのE♭フルートで最初のソロ・アルバムをレコーディングしました。以来E♭で演奏することが流行ったのも驚くことではありあません。


(2)理想のフルート

マットが一番よく使うフルートは1861年に作られたオリジナルのPratten Perfacted Booseyです。付属のケースとシドニー・プラタン Sidney Pratten自身の保証書もついています。

チーフタンズで演奏したりソロ・アルバム「Shadows on Stone」で使ったのはこのフルートです。美しい木製らしい音色で指孔が大きく、マットがその長い演奏生活の中で何度も何度も戻ってきたフルートです。

これは私のスタイルにあっているのです。繊細さが欲しい時には繊細に、パワーが欲しい時にはパワフルに鳴ってくれます。私の求める豊かな木製の音を与えてくれるのです。
あなたそのものなのです。そこにすべてがかかってきます。

― マット・モロイ A Guide to the Irish Flute

下の動画はTG4 Gradam Ceoil での演奏で、ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた時のものです。
 

(3)新しい調

耳の鋭い方は、マットがD、E♭、B♭、など様々な調のフルートで演奏していることにお気づきでしょう。マットのB♭のフルートはホークスHawkesで、1880年代の見事な古い楽器です。暖かく優しい音で、本当に美しいのです。

これ以外にも(これですべてではないのですが)アメリカの製作者パトリック・オーウェルのフルートも持っています。


(4)現代のフルート職人

オーウェルのフルートを欲しがる人は数多いますが、それも理由があることです。パトリック・オーウェルはフルート奏者の求めるものを理解した才能ある製作者です。オーウェルのフルートは反応がよく吹きやすいのです。

おそらく現代のフルート製作者の中でも最高の職人はバージニアのパトリック・オーウェルだと思います。素晴らしいフルート職人です。彼自身もフルートを吹きますし、フルートという楽器をよく理解しているのです。こちらの希望を伝えると、音域とか音色とか音質とかを話し始めると、彼はちゃんと理解してその通りのものを作ってくれるのです。それ自体が素晴らしい才能です。

― マット・モロイ

オーウェルのフルートの待機リストは長いですが、望みがないわけではありません。もしいつかオーウェルのフルートを手に入れたいと心に決めたのなら、今、リストに名を載せてもらうことをお勧めします。十分に腕を上げた頃に、自分の技量を発揮できる素晴らしい楽器を手に入れることができます。
 

6. おすすめのフルート職人

マット・モロイと同じフルートを手にしたいと思っているのなら、少々落胆するかもしれませんが、絶望することもありません。

オリジナルのPratten Perfacted Booseyを見つけることはできないかもしれないし、オーウェルのフルートは予算を越えているかもしれません(50万円~)が、マットのに匹敵するような素晴らしいフルートを作る職人は大勢います。
 

アイルランドではハミー・ハミルトンHammy Hamilton、サム・マリーSam Murray、ブレダン・マクマホンBrendan McMahonがいます。3人とも楽器製作の腕を上げています。初期の頃は当たり外れがありましたが、すっかり上達しました。素晴らしい工具を持っています。みんないいフルートを作るし、みんな満足のいく楽器です。一度滅びかけた技術であることを考えると、信じられないほどです。

― マット・モロイ

これは1997年の記事からの引用です。24年前もアイリッシュ・フルート製作の未来は明るいものでしたが、今はさらにうまくいっています。美しい楽器を作る優れたフルート職人は大勢います。

長い年月がたった今でも高く求められている職人はサム・マリーです。

サムはベルファスト出身の、有名だけれどあまり人前に出てこない職人です。およそ50年間フルート製作に携わってきて、その品質は世界的に知れ渡っています。何年間かフルート製作から引退していましたが、注文があとを絶たないので、また復帰しました。

サム・マリーのフルートは計り知れない価値があります。彼のブラックウッドのフルートは甘く優しい音色ですが、パワーがあります。このフルートがあればどんな場面でも困ることはありません。

マクニーラのオンライン・ショップでサムのフルートを購入することができます。一度覗いてみてください。

あなたに向いたフルートを手にすれば、腕が上がります。
 

7. 手ごろな値段のもの

お値段が問題になるのでしたら、マクニーラのブラックウッドのフルートはお手頃な値段の素晴らしいフルートです。

アフリカン・ブラックウッド―アイリッシュ・フルート奏者の間で一番好まれる素材―で、当店でもよく売れています。

響がよく、大きな音でボリュームがあります。驚くほど力強い楽器で、吹きやすく、セッションやアンサンブルで完璧な働きをします。

この美しいキーなしフルートで、特徴的なアイリッシュ・フルートの木の音色を楽しむことができます。