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ケルトの笛とは

ピト Pito

ピト・パストリル/ピト・ガレゴとは

画像はEfraím Díaz氏提供

ピト・パストリル (Pito Pastoril)/ピト・ガレゴ (Pito Galego) とは、表面に7つ、裏面に1つの穴がある、リコーダーの形状を持つ縦笛です。

主に、スペインの北西部に位置するガリシア地方の伝統音楽やフォークミュージックで用いられています。

ピトはスペイン語やガリシア語で笛を意味し、羊飼いが使っていた笛をその起源に持つことから、羊飼いの笛を意味するピト・パストリル (Pito Pastoril) といった名前や、ガリシアの笛を意味するピト・ガレゴ (Pito Galego) といった名称で親しまれています。

現代のピトは木製のものが一般的で、リコーダーのような見た目をしています。
運指はガイタ (バグパイプ) と非常によく似ており、全ての半音階を簡単に演奏することができるため、ガリシアではガイタの入門楽器として用いられています。
また最近は練習用の楽器としてだけではなく、ピトを使った様々なアンサンブルやソロなどでも使用されています。

運指表

※半音階は楽器によって微妙に指使いが異なったり、別の押さえ方が存在したりする場合があります。
2オクターブ目はサミングを使うこともできますし、オーバーブロウで鳴らすことも可能です。
また、ピトの調は、ガイタと同じく、右手小指以外の穴を全て塞いだ時の音で判断されます。
例えば、この表のピトはD管です。
これは、よく似た見た目のリコーダーとは異なる (リコーダーは全ての穴を塞いだ時の音で判断される) ため、注意が必要です。

全音階 (いわゆるピアノの白鍵の音階) は、右手小指や裏穴の使い方を除くと、ティン・ホイッスルとほぼ同じであるため、指を下から1つずつ開けていくことで、簡単に全音階を演奏することができます。
そのため、リコーダーのような複雑な運指を覚えなくても、ティン・ホイッスルが得意とする素早いフレーズを容易に演奏することが可能です。
また、ダブルホールやクロスフィンガリングを用いることで、半音階も全て鳴らすことができるため、ガリシアの音楽に特徴的な同主調での転調 (ハ長調→ハ短調など) にも対応することができます。

ピトの歴史

(写真1)Efraím Díaz氏提供

ピトの起源は、羊飼いたちが家畜の世話をする時に吹いて遊んでいた笛に遡ることができます。
この笛は今日のピトのような職人が製作したものではなく、葦などの筒状のものに穴を開けて作った、いわば自家製の笛でした。自然に入手できる材料を使って簡単に製作できるため、子ども用のおもちゃや、楽器演奏経験のない人にとっての練習用の楽器としても親しまれていました。

20世紀に入ると、木製のピトが製作されるようになります。
写真1の (1)~(3) は、この時期に製作されたと考えられているピトで、素材に柘植が用いられています。
いずれも表面に6つの穴があり、先が細い円錐形となっています。
調は (1) がG管、(2) がF#管、(3) はC#管となっています。製作者は不明ですが、コルーニャに1987年まで店を構えていた楽器店の店員が所有者のペペ・テンプラーノ (Pepe Temprano) に語ったところによると、20世紀の初め頃にはフランスから多くの縦笛が輸入されており、その笛を模倣してピトを製作していた職人がカリーニョにいたらしく、その人が製作したものではないかと考えられています。
また、当時はアイルランドからティン・ホイッスルも輸入されており、ピトの代わりとして演奏されていたようです。

 


写真1のピトを演奏するエフライン・ディアス

その後内戦の勃発などの影響もあり、ピトは消滅の危機に瀕してしまいますが、50~60年代に入ると、E管の縦笛が製作されるようになります。

(4)、(5) は、パウリーノ・ペレス (Paulino Perez) 氏が製作したフラジオレットです。パウリーノ・ペレスは当時、ルーゴ県の支援を受けて、サンフォーナ (ハーディーガーディ) の演奏で有名なファウスティーノ・サンタリセス (Faustino Santalices) と共に伝統楽器の製作所を運営しており、ガイタやサンフォーナを始め、様々な楽器を製作していました。
これらのフラジオレットには、表面に7つの穴があり、(4) に関しては左手の親指の部分にも1つ穴が開いています。

(6) および (7) は、サンティアゴに工房を構えていたガイタ職人のバシリオ・カリル (Basilio Carril) が製作したもので、いずれも表面に7つ、裏面に1つ穴があります。

穴の数は、この頃からガイタと同じ数のものが一般的となり、ガリシアの伝統音楽で頻繁に用いられる導音に対応することが可能になりました。
(4) には柘植と牛角、(5) には牛角、(6) および (7) には柘植が用いられていますが、ファウスティーノ・サンタリセスがガイタの素材にグラナディラやローズウッドなどの輸入材を取り入れて以降、ピトにもこれらの素材が使われるようになりました。

ルーゴの伝統楽器製作所のパウリーノ・ペレスが1975年に亡くなると、アントン・コラル (Antón Corral) が後任として就任します。
アントン・コラルは、この数年後にオルティゲイラでケルト音楽フェスティバルが開催されたことによる需要の高まりなどを受け、オルティゲイラのガイタ学校に招聘される形でこの都市へと工房を移すことになります。
オルティゲイラに移ってから間もなく、アントン・コラルは新しいピトの開発に取り組むようになります。
パウリーノ・ペレスの後任を務めた彼でしたが、パウリーノのフラジオレットの音は彼にとって納得できるものではありませんでした。
そこでアントン・コラルはバシリオ・カリルのピトをモデルとしたE管のピトを製作し、音質の向上を図りました。

しかし、彼はこの改良だけで満足しませんでした。
ルーゴ時代に、ガイタだけでなく、サンフォーナなどの様々な伝統楽器の製作に取り組んでいたアントン・コラルは、これら全ての楽器を一緒に演奏できるようにしたいと考えたのです。
それまでのピトはE管 (F管やE♭管に近いものもあり) だったため、ガイタやサンフォーナとは調が合わず、合奏することは不可能でした。
また、当時のピトは音程もあまり正確でなく、半音階の演奏も容易ではありませんでした。
もっとも、ガイタのレパートリーに半音階や短調の曲が頻繁に取り入れられるようになったのは20世紀以降のごく最近の傾向であり、全音階だけでもたいていのガイタの伝統曲は演奏可能ではありましたが、歌やサンフォーナのレパートリーを演奏する時にはどうしても半音階が必要になりました。

そこでアントン・コラルは、1978年に (8) のピトを製作しました。
調にD管を採用することで、ガイタやサンフォーナで一般的な調のニ長調や、ト長調に対応することが可能となったのです。
また、右手中指の部分にダブルホールを採用することで、ファの音の演奏が可能となり、ニ長調の同主調であるニ短調に対応できるようになった他、精密に計算された円錐形の構造を取り入れることで、クロスフィンガリングを利用して、ソ#やラ#の音も演奏可能となりました。

また、翌年の1979年には、右手薬指の部分にもダブルホールを採用したモデルを開発し、これにより、全半音階の演奏が可能となりました。
そしてこのモデルは、現在製作されている一般的なモデルとして定着しています。
 


アントン・コラルはその後、ビーゴに工房を移します。
以降、2000年に定年退職するまで、彼は多くの弟子を育て、中でも特にミゲル・モスケラ (Miguel Mosquera) は専門的にピトの製作・開発に取り組んでいます。
彼は (9) のようなD管の他、C管、B♭管、A管、G管、テナーD管 (ローホイッスルのD管に相当) など、様々な調の楽器を製作しています。
 

ピトの音源&演奏者紹介


ピトが初めて録音された音源は、1971年にオス・シャコベオス (Os Xacobeos) が発表したレコード、“Pitos Gallegos” です。
ここでは、サンティアゴのガイタ職人でピトを製作していたバシリオ・カリルが、自身の製作したピトを演奏しています。
 


しかし歴史の項で述べたように、プロの演奏に耐えうる質の高い、様々な調のピトが作られるようになったのは、1980年代以降の比較的最近の出来事であるため、近年まで録音物や音楽作品はほとんどありませんでした。

現在一般的となっているピトのモデルを確立したアントン・コラルは、ピト以外にも様々な伝統楽器の復興・開発・改良に取り組み、1987年にこれらの伝統楽器を紹介するCD、“Instrumentos Musicales Populares Gallegos” を録音しました。
このCDでは、当時まだ10代でデビュー前だったカルロス・ヌニェス (Carlos Núñez) や、アンショ・ピントス (Anxo Pintos) によるピトの演奏を聴くことができます。(ディスク1の1曲目と2曲目、ディスク2の4曲目、7曲目および12曲目に収録)
 

しかし、このようなCDが発表されても、ピトが大きな注目を浴びることはありませんでした。
ガリシアの伝統音楽やフォークミュージックの花形はやはりガイタであり、ピトはその練習用の楽器や、初心者向けの楽器に甘んじていたのです。

そんな中で、元々ガイタやパーカッションを専門としていたエフライン・ディアス (Efraim Díaz) は、ガリシアのフォークバンド、ハイタ・デ・ペドラ (Ghaita de Pedra) の録音に参加した2009年頃、ピトを主に製作している職人ミゲル・モスケラからこの楽器を紹介されたことをきっかけに、演奏を始めました。

彼は2013には、ピトとサンフォーナを意味するアンサンブル、Pitanfonaを結成します。

また、2015年には、ピトにフォーカスしたアルバム “Pito Galego” を発表し、この楽器を芸術的レベルにまで高め、話題となりました。
このアルバムで彼は、ムイニェイラやショタなどのガリシアの伝統的なダンス曲だけでなく、アルフォンソ10世のカンティーガなどの古楽曲や、クラシック、アイリッシュのレパートリーなども収録し、半音階やアイリッシュ特有の素早いパッセージや装飾音を容易に演奏できるこの楽器の特徴を最大限に活かすことにより、ピトの新たな可能性を提示しました。

エフライン・ディアスは、2016年にはモンドニェドで行われたガリシアの青少年ブラスバンド、Banda Sinfónica Infantil de Galiciaのコンサートのソリストとして共演するなど、伝統音楽の世界だけに囚われない活動を展開しています。

また2017年には、第2作のソロアルバム ”Dende as Polas” を発表する予定です。

この他にも、ビーゴで活躍する伝統音楽のバンド、Noitaregaなども演奏の中に取り入れています。

プロのミュージシャンでピトを演奏する人はまだまだ少数ですが、これからさらに多くの作品が発表されることが期待されています。

ピトをもっと知りたい人のために

ホームページ
Instituto Galego de Estudos do Pito Pastoril (IGAESPI)
エフライン・ディアスが運営するブログ。ピトの様々な資料、楽譜、映像が公開されています。

書籍
Quintas Suárez, Moisés (2015), PITO GALEGO. Método práctico, Ouvirmos
http://ouvirmos.com/web/catalogo/pito-galego-metodo-practico/
2015年に出版された、初のピトの教則本です。

 

 
ステッカーで学ぶケルトの笛
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