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ケルトの映画館

ブルックリン

映画の基本情報

HUNGER
製作:2015年
原作:Brooklyn
上映時間:112分
監督:ジョン・クローリー
出演:シアーシャ・ローナン、ジム・ブロードベント
ジャンル:ドラマ/ロマンス

ストーリー

アイルランドの小さな町で母と姉と暮らすエイリシュは、仕事が見つからない状況を案じた姉の計らいで、単身アメリカに渡ることに。
右も左もわからない国で、ひとり生活をはじめなければならない彼女は、不安とホームシックで辛い日々を送っていたが、周りの人々の支えもあり、次第にアメリカでの生活に馴染んでいく。
ある夜、アイリッシュダンスパーティで知り合った青年と恋に落ちたエイリシュは、アメリカではじめて幸せを感じ、前を向いて自分の人生を歩んでいける、そう感じるようになっていったが、ある事件が彼女をアイルランドに引き戻すー。

物語の時代

1951年〜1952年

ロケーション(撮影した場所)

アイルランド ウェクスフォード州 エニスコーシー
(主人公のふるさと)

アイルランド ウェクスフォード州 カラクロー・ビーチ
(主人公がアイルランドで訪れるビーチ)

 

アイルランド ウィックロー州

アイルランド ダブリン

登場する土地

アイルランド ウェクスフォード州 エニスコーシー

上記のロケ地と同じ、主人公がアイルランドで住んでいた小さな町です。

ニューヨーク州 ブルックリン

ちょこっと解説:
映画のタイトルにもなっているブルックリンは、ニューヨーク市を構成する行政区のひとつなんです。(あの、摩天楼ゾーンだけがNYじゃないんですね)
他には、もっとも有名なマンハッタン、クイーンズ(オランダ系多し)、ブロンクス(アイルランド系、イタリア系ギャングが多かった)、そしてスタテンアイランド(イタリア系多し)となっています。

登場する伝統音楽

この映画には、とてもたくさんのアイリッシュ伝統音楽が登場します!
あとで詳しく書いていますが、特に前半にたくさん登場し、アイリッシュ移民の複雑な心境を表す、とても重要な役割を担っています。
また、とても印象的なシーンではシャーン・ノースが歌われているなど、アイリッシュファンにはたまらない映画かもしれません。

Teddy O’Neill ● 楽譜 The Session

Golden Jubilee ● 楽譜 The Session

Castle Finn

Casadh An Tsúgáin ● 楽譜 The Session

The Stack of Barley ● 楽譜 The Session

店長のココが見所♪

この映画は、とってもシンプルで普遍的な物語(少女の成長)が軸になっています。
なので、メインのストーリー以外の細やかな要素を味わうのがこの映画の乙な楽しみ方。

そこでまず、映画をざっくり分けると、
「成長を情緒豊かに、コミカルに描いた活気ある前半:ブルックリン篇」と、
「故郷と新天地の間で揺れ動く、少し退廃感を感じる少女漫画ノリの後半:アイルランド篇」
になっていて、それぞれに対比するテーマを読み取ることができます。

店長的に、ぜひみなさんに特に注目してもらいたいケルトなポイントとしては

〈前半〉
・アイルランドに対する郷愁の思い
・離れているからこそ、身近に感じる伝統

〈後半〉
・アイルランドの閉鎖的風習に対する思い
・伝統がそういった負の現実につながっているかもしれない環境

これは、一般的にわかりやすく説明される
「アイルランド人は英国からの圧政、ジャガイモ飢饉が重なり、移住を余儀なくされました」
という側面から見たお話に対して、もう少し踏み込んで
「アイルランド移民の最大の特徴でもある、故郷に戻る人の少なさは、実は圧政や飢饉以外の問題ですよね」
という、いささかダークサイドな、触れづらい実情を見せてくれます。

これは、現在まで世界中にたくさんいる、アイリッシュ系移民の複雑で相反する故郷への思いを代弁しているような感じがします。
  また、この映画には、特に前半にかなりたくさんの笑いどころ(ジョーク)が出てくるんですが、この多くは、その時代のアイルランド問題に触れたもので、後半に描かれるお話の伏線になっていたりします。

たとえば…

日曜日に雑貨屋さんにて
「靴磨きをください」
といったお客さんに対して、店主が
「なんで靴磨きを?日曜日は食品を買うものでしょう!靴磨きなんて昨日までに買っておきなさいよ。靴が汚れてるわよ」
と吐き捨てるシーンがあります。

なんとひどい店主がいたもんだ、という感じですが、これも「カトリックの日曜日=安息日=働いてはいけない日=靴を磨くなんてもってのほかですけど何か?」という風習を知っていると、意味がわかり、その当時の雰囲気を誇張して凝縮したシーンに、くすりと笑ってしまうシーンのひとつになります。(いや、笑えないか?)

最後に音楽の話ですが、ブルックリンの生活を描いた前半部分には、多くのアイリッシュ音楽が登場します。

故郷を離れている時にこそ、より強く自国の伝統を愛おしく思う方程式(?)を表すように、後半主人公がアイルランドに帰るタイミングから、あまり音楽を聴くことができなくなります。

この辺りも、主人公の心境を表すツールとして、とてもわかりやすいはたらきをしていると店長は感じました。
 
 

Maria Chiaraさん(@ura_maki)が投稿した写真 -

店長の早わかり歴史

アイルランド移民の少女と、イタリア移民の青年の恋物語なので、移民の歴史についてサクッと書いてみたいと思います。

アメリカは移民の国といわれますが、なにも一気に全員でアメリカにやってきたわけではありません。
この映画の舞台は1951年ですが、アイルランド人がアメリカに移住しはじめたのは、ちょうど100年前の1850年代からなんです。
その後、1880〜1900年にかけて、大量のアイリッシュがアメリカに移り住みました
ほとんど同じ頃、ドイツ系の人たちも、アイリッシュよりもやや多いぐらいの単位で移住しています。

移民同期にあたるドイツ人、そしてやや先輩の英国人は、様々な職についてアメリカンドリームを切り開いていましたが、アイルランド人は、建国した人たち(英国系)の「アイリッシュは教養がない田舎者」というステレオタイプな印象を新天地にも引き継がれてしまったせいで、「バカにやる仕事はないね」と、ろくに仕事もまわしてもらえませんでした。

苦しい時こそ団結しよう、といくつかの町にアイリッシュのコロニーを作り、新しくくる移民を取り入れ、集団の力を蓄えていきます。(ブルックリンやボストンもそのひとつ)

一方で、「仕事がありません、だからニートになります」とはいきませんので、英国人やドイツ人がやりたがらない危険で過酷な仕事を一手に引き受けて、生計を立てるようになります。(建設、消防士、警察官など)

出展 pixabay.com

さて、そこから少し時代は進んで1930年代
この時期から、イタリア系移民が大量にアメリカに押し寄せます
今までいじられるばかりのパシリキャラだったアイリッシュの下に、新入生がやってきたようなものなので、一転先輩ヅラする機会が増えていきました。

特にその頃になると、警察官や消防士などはアイリッシュで構成されていて、なおかつアイリッシュギャングもたくさんいますから、イタリア移民からすると、右向いても左向いてもアイルランド人が強権振りかざしていじめにくるよ!(号泣)という状況におかれ、イタリア系はアイルランド系を嫌うようになっていきましたとさ。

こんな感じの背景があっての、この映画なんですね。

余談ですが、主人公のボーイフレンドは、メジャーリーグ球団ドジャースの大ファン。
野茂や、マエケンなどたくさんの日本人選手も所属していたロサンゼルス・ドジャースを、なんでニューヨーカーの青年が好きなんだ?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、ドジャースは1957年まで「ブルックリン・ドジャース」という、歴としたニューヨークの球団だったんですね。

移民に歴史あり、過酷な時代を映す歴史モノではない、普通の一人の少女を通して、過酷な時代を見つめた名作、アイリッシュファンなら、ぜひ一度ご覧ください。

どなたでも楽しんでいただける作品だと思いますが、特に女性におすすめです!

 

関連映画

「あなたを抱きしめる日まで」(同時代を描いた作品)
「静かなる男」

 
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