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ケルトの笛 インタビュー

パトリック・オーウェル(Patrick Olwell)

このインタビューは1999年10月に、ワシントンDCのフルート奏者、ティナ・エック Tina Eckによって行われました。
ティナは紹介文を書き、インタビューの文字起こしをし、写真も提供もしてくれました。

パトリックのドキュメンタリー・フィルムもこちらで入手できます。

経歴

パトリック・オーウェルは世界で最も名を知られたアイリッシュ・フルートの製作者で、彼のフルートはシーマス・イーガン Seamus Egan、マット・モロイ Matt Molloy、マイク・ラファティー Mike Raffertyなどのプレイヤーの他、アメリカや国外の無数のフルート愛好家に愛用されている。
イギリスではジェスロ・タル Jethro Tullというバンドのイアン・アンダーソン Ian Andersonがオーウェルの竹のフルートと木のG#フルートを吹いていて、ブライアン・フィネガン Brian Finnegan(バンド、フルックFlookで活躍)はオーウェルの竹のフルートの名手である。
オーウェルはシンシナティーの生まれで、ヴァージニア州シャーロッツヴィルの南、ネルソン郡に住み、そこで仕事をしている。
彼の工房はヴァージニア州のマシースミルという小さな閑散とした町の1921年に建てられた古い銀行の建物の2階にある。

パトリックは1970年代からフルートを作っている。
アンティーク・フルートの修理・修復の仕事を手掛け、まもなくキーのない竹のフルートを作り始め、1980年代初めには木のフルートを作ることになった。
彼のフルートは(竹も木も)この上なく美しく品質も優れている。
木製の笛の材料は、ブラックウッド、ローズウッド、コークス、柘植である。
キーつき、キー無し、頭部管の内部が金属のものと木のもの、キーはD、B♭、Cなどがあり、注文に応じても作ってくれる。
オーウェルのフルートは特徴のある力強い音と木製楽器特有の暖かい音色をあわせ持っている。
ロンドン、ニューヨーク、フランスのフルート職人が何世紀にもわたって積み重ねた経験と、パトリックの新しい科学的な手法や独学による実験、革新のセンスが見事に融合している。
彼のフルートは世界中の熱心な演奏者に求められ、待機リストは長いが、手に入らないわけではない。

翻訳:村上亮子
※の箇所は、hataoが補足しました。

左枠:インタビュアー 右枠:パトリック・オーウェル

フルート製作に関心を持ったのはいつ頃のことですか。
また、どうして自分で作ろうと思ったのですか?

1970年代の終わりごろから80年代の初め頃のことですが、私は北アメリカや日本の民俗音楽や横笛の音楽をよく聞いていました。
また、木管楽器で中世の古楽も聞きました。
こういった楽器の音は魅惑的でした。
(現代の長調/短調の調性とは異なる)モード(旋法)の音楽です。

アイリッシュ・フルートの音色を聞いたとき、ずっと前に死に絶えたはずの中世の伝統が、今もそこに生き生きと息づいていると思えたのです。
木や竹で出来たシンプルなフルートは、金属のフルートにはない、何か人に訴えかけるものがありました。
神秘的ですらありました。
昔からフルートは瞑想とかかわりがあり精神的であると考えられてきましたが、木のフルートを吹いていると何かとつながっていると強く感じます。
それは吹いていないときには決して感じられないものです。

私自身、始めた頃は上手に吹くこともできませんでしたが、そんな素晴らしい楽器を自分で作りたいと思うようになってきたのです。
私のフルート制作の記録は1981年の7月に始まっています。
最初のフルートが完成したときです。
誰かの見習いをしたわけでもなく、お金も道具も持っていませんでした。
けれども家族と手を貸してくれる子供が2人いました。
友達の地下室で旋盤を見つけて、それを貸してもらいました。
別の友達が穿孔盤、帯鋸、回転研磨機を貸してくれました。
指孔を開け、歌口の形を整えるのに使うのです。
木の塊とドリルを手に入れて仕事を始めました。
それよりも前、1975年頃に竹のフルートは作り始めていましたが、最初の円筒形の木製フルートが出来たのは1980年のことでした。
最初の円錐形フルートは1981年です。
最初に作った製品はクラフト・ショーで売りました。
最初の3本のフルートはお金を得るために、すぐに売らなくてはならなかったのです。

研究はどのようにしたのですか。
フルートの作り方はどうやって学んだのですか。
もっと簡単に言うと、孔を開ける場所はどうやって知ったのですか。

古いフルート(アンティーク・フルート)を研究しました。
でも、こういった古いフルートには色々と訳の分からない事がありました。
手に入る古いフルートはどれも、耳で聞いてもチューナーで測っても音が外れていたのです。
わざと音をはずしているのでしょうか。
それとも職人の腕がダメなのでしょうか?演奏する人が今とは違う吹き方をしていたのでしょうか? たくさんの疑問がわいてきて、答えを探さなくてはなりませんでした。

何時間も何日間も、ヴァージニア大学の図書館にこもって本を調べ、"Galpin Society of England"という本を見つけました。
1800年以前の古楽の音楽理論を扱う季刊の学術誌です。
その本に1562年、1574年、1585年のルネッサンス・フルートの詳細な記述があり、それは円筒の管体で指孔も歌口も小さなものでした。

そこで私はその内の1つの複製を作ってみました。
寸法は"Galpin Society of England"にきちんと書いてあります。
で、その第一号はいい出来で、クリス・ノーマン Chris Norman(※カナダの木製フルート奏者)がアルバムを作る時に使ってくれ、おかげで評価も上がりました。

また、バロック・フルート(1650年~1680年)の複製も作りました。
このフルートは円筒ではなく円錐形の管体を使い、パーツに分けて作りました。
指孔も歌口もさらに小さいものです。
しかし私はここでさらに重要な研究を始めました。
多くの古い楽器の寸法を測り、記事から寸法を知り、他の製作者と議論を重ねました。
この作業を始めた時に最初にしたことは、このような学術誌や国会図書館のデイトン・ミラー・コレクションDayton Miller Collectionから出来るだけ多くのスケッチを手に入れることでした。
寸法を測ることも大事ですが、実際に吹いて演奏できることも大切です。

アイリッシュ・フルートの前身であるルネッサンス・フルート、バロック・フルート、クラシック・フルートを演奏して、寸法を測って、研究することは、フルートの歴史を理解する上で大いに役に立ちました。
異なった時代やスタイルにおけるチューニングの仕方や夫々の必要条件に適応するやり方のことです。
私は1820年代~30年代のフルートの歴史とその時代の奏者について出来る限りの本を読みました。
ルーダル&ローズだけを取り上げてその正確なコピー、欠陥部分も含めたコピーを作るのではなくて、すべてを総合的に考えようとしたのです。

つまり、「過去の最高のものを最大限に活用する」のですね。
では「現代的なアプローチ」はどのように作品制作にかかわり、どのようにしてこの古い楽器を21世紀の我々の耳に正しい音程で聞こえるようにしたのですか。

18世紀後半のチューニング法の解明に本腰を入れました。
1790年頃のモーツァルト時代の古いコンサート・フルートは基準音の異なった3本の中部管を備えていました(※当時は固定の基準音が定まっていなかったので、様々な基準音に対応できるよう、替え管を利用していた)。
私はそのやり方をコピーしてみました。
替え管がどれだけ正確なのか見たかったのです。
のちにチューニング・スライドが発明され、3本から6本もの中間部を作ることはなくなりました。
演奏者はチューニング・スライドを動かすだけで、DからE♭まで、ほとんどどんな基準音にも対応できるようになり、正しい音高で吹けるようになったはずです。
しかしチューニング・スライドを詰めたり伸ばしたりして歌口と指孔との位置関係を変えると、音階は変化し、音程をめちゃくちゃにしてしまいます。

※頭部管の抜き差しでチューニングするのは、万能な解決方法ではありません。
例えば、頭部管とAの指孔の距離が10センチ、頭部管と筒先(Dの音)が20センチの距離であれば、頭部管を5mm抜くとC#に対しては5%伸びたのに、Dに対しては2.5%しか伸びていません。つまり頭部管に近い指孔ほど音程が変化する比率が高いのです。そのため、頭部管の抜き差しをすると全体のバランスが崩れてしまいます。

一方で3間部が3本あれば、指穴がそれぞれ違うところ位置するので、より正確でした。
それは大きな発見で、そのおかげで色々な新しい理論に行き着くことが出来ました。
たとえば、その1つ「なぜクレメンティ・フルートは音が外れるか?」という疑問は、それが古い音階を採用していて、右手管の指穴はそのままで、上部の左手管を短くしているからなのです。
フルートの製作者は必ずしもフルート奏者ではありません。
だから、気がつかなかったのです。

そこから、アンティーク・フルートについて「どんな基準音で演奏されることを想定しているのか?」という疑問につながりました。
私は、当時のイギリスの基準音がこれほど高いとは知りませんでした。
452hzです(現代のE管フルートが456hzです)。
ヨーロッパ大陸のほうは435hzで、ドイツやフランスの方が低かったのです。
一つ一つのアンティーク・フルートの基準音も様々です。

チューニング・スライドを引き出して異なる音程に対応することは、フルートの長さを変えることによって結果的に音階を変えるということになります。
最良のフルートはイギリス諸島で作られてきたので、自分はその多くをコピーしてきました。
そこで自分にとっての問題は、イギリス製の452hzの基準音のフルートを現代の440hzにあわせるために、どの音を低めて、フルートのどの部分を引き伸ばすべきか、ということなのです。

クリス・ウィルクス(イングランド)、ハミー・ハミルトン(アイルランド)、サム・マリー(ベルファスト)のフルートを計ってみました。
3つとも頭部管が長いのです。
それらのフルートは基本的に古いフルートの管体を複製し、頭部管を長くしています。
それから、相対的に音高を変えるために、指穴のサイズを変えています。
しかし私はバロック・フルートや初期のクラシック・フルートを研究してきて、上部中部管が3つあることを知っていたので、本当に変えなければならないのはフルートの「音階 ※原文:scale、ドレミの組み合わせという意味ではなく、各指孔の音高と音高との差=音程のこと」である、つまりヘッドジョイントではなく、フルートの管体であると思いました。
また、私が計測したすべての初期のフルートは1830年代(いわゆるアイリッシュ・フルートが生まれてきた頃)のフルートと比べて頭部管が短いということが分かっています。
1830年代になると頭部管は長くなっていたのです。
つまりこういうことです。
彼らが3つの中部管を持ったフルートを複製したとき、一番短いのを複製したのです。
それから頭部管を長くすることで調整しました。
それは私がしたかった事ではありませんでした。
フルートの円筒部分を延ばす代わりに私は円錐部分を長くしたいと思ったのです。
そのほうがずっと難しいのです。
指穴の位置をどう変えるか決めなければなりません。
しかし古いフルートを研究して、どうすればいいかアイディアが沸いてきました。

19世紀中ごろのイングランドのフルートは最低音のDの音高は低く、AとBは高くなっていました。
とても強く吹くようにデザインされていました。
さらに「管体を長く」し、(すでに伸ばした)頭部管はそのままにしました。
また、頭部管はあまりしっかりしたものではありませんでした。
大概は薄すぎたのです。
例えば、ルーダル&ローズの少し前、イギリスのチャールズ・ニコルソンが作った「最盛期の」ニコルソン・フルートです。
何かを手本としたのではなく主に自分で設計したものでしたが、強く吹く必要がありました。
特徴は薄い頭部管、鋭いエッジの大きく開けすぎた歌口です。
頭部管が厚いほうがはるかに吹きやすいことに気がつきました。
アメリカのフルートはまったく違った寸法で、ドイツ、フランス、イングランドのフルートの特徴を混ぜ合わせたユニークなものです。
(例:バアックBaack、NY Palowbay。
これらのフルート製作者はドイツ、フランスのフルー職人の後継者なのです。)
彼らはチャールズ・ニコルソンの影響を受けていませんし、そのフルートは音程が合っています。

古い伝統を復興する上で、アイリッシュ・フルートは(そしてあなたのフルートは)どのような役割を果たしているのでしょうか。

フルートはアマチュアの楽器としていつも絶大な人気を誇ってきました。
ステレオができる前、人々は集まっていっしょに演奏していました。
伝統音楽とかダンス音楽が演奏されました。
この音楽は特に訓練を受けていない普通の人にとって手の届くものです。
1820年代から40年代、音楽をするのは決して身構えることではなかったのです。
1816年、エドワード・ライリーEdward Reillyによってフルートのための曲集が出版され、さかんに演奏されました。
そして今日、およそ200年たって、世界中でアイリッシュ音楽が盛り上がっています。
この音楽は決して権威的なものではなく、伝統音楽に命を与え、すべての人の手が届くものにしています。

私のフルートについて言えば、例えば、マイク・ラファティーです。
彼自身の言葉ですが、「私の演奏は飛び立つことができた。
Olwellフルートのお陰で)古いドイツのフルートや金属のフルートでは決して吹けない古い曲を吹くことができた」のです。
私のフルートが、彼がふるさとの音楽を取り戻すのに役に立ったのです。
伝統は私から伝わるのではありませんが、私はラファティーのような人たちと共に働き、彼らのために楽器を作り、彼ら音楽家が(楽器が)なければなし得なかった形で伝統を育むことを可能にするのです。
もし音楽家が楽器に満足できなかったら、演奏をあきらめてしまうかもしれません。
私の楽器を使って、音楽家は録音をし、演奏し、聴衆の心に触れ、伝統を他の人につないでいくのです。
音楽家の特別な注文や要求に沿って作ることもあります。
反応や指穴を変えたりします。

フルートを1つ作ると、3週間かけて自分で吹いてみて、満足するまで微調整します。
歌口の調整(voicing)は、その笛に「声」を与える実に繊細な整形を含んでいます。
言い換えると、その笛に自ら語らせるといってもいいかもしれません。
硬いエッジのフルートを望む人もいるかもしれません。
より柔らかな優美な声を好む人もいます。
しかし基本的には他の奏者も、音色、反応、演奏のしやすさ、音程の正確さなど、私と同じものを求めています。

フルートのデザインは少なくとも10000年前から6孔です。
たぶん30000年から40000年にもなるでしょう。
人の息で演奏することで、指先の腹に空気を感じることができます。
材料は自然界から調達できます。
(木、骨、竹)自然とのかかわりはそれと関係あるでしょう。
半音はあまりなく。
キーは必要ありません。
フルート(1850年、銀のフルート)はクラシック音楽の進化と共に進化しましたが、シンプル・システムのフルート(※ベーム式ではない、孔を指で押さえるタイプのフルート)は伝統に合っています。
半音は必要ないのです。
伝統音楽をする人が半音を多用した複雑なクラシック音楽のために作られた楽器にこだわるのはまったく意味がありません。
今日のフルート製作者はアイリッシュ音楽に特化したフルートを作っていて、その意味でアイリッシュ・フルートは伝統に貢献しています。
多くの製作者(ハミルトンやウィルキス)は大半のアンティーク・フルートより優れたフルートを作っています。
もはや演奏者は異なった基準音で演奏するために作られたフルート、音程の外れたフルートで苦労することはないのです。