【バックナンバー:クラン・コラ】Issue No.275

アイリッシュ・ミュージック、ケルティック・ミュージックを中心としたヨーロッパのルーツ音楽についての情報、記事、読物、レビューをお届けする月2回発行のメールマガジン「クラン・コラ」。

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クラン・コラ Cran Coille:アイルランド音楽の森 Issue No.275

アイリッシュ・ミュージック・メールマガジン 読み物編
Editor : 竹澤友理
August 2018

お薦めCD ; ボタン・アコーディオン編 その2:吉田 文夫

■DAMIEN MULLANE(ダミアン・ムレン)

オール・アイルランド・チャンピオンを2005年と2007年に獲得。切れ味鋭い演奏や斬新なアレンジでも注目を集め、大御所De Dannanのメンバー、ダンスショウ「Woman of Ireland」のツアーメンバー等も勤めた。

・DAMIEN MULLANE / 13
・Frankie Gavin & De Dannan* / Jigs, Reels & Rock N’ Roll ..その他

■Danny O’Mahony(ダニー・オ・マホニー)

同じく現代の伝統音楽シーンの若手を代表する蛇腹奏者の一人。ケリー北部の出身で、家族から大きな影響を与えられ、伝統音楽を深く理解した彼の演奏は聴き手の胸を打つ。

・DANNY O’MAHONY / IN RETROSPECT
・Mícheál Ó Raghallaigh and Danny O’Mahony’s / As It Happened

■DAVID MUNNELLY(ディビッド・マネリー)

現在、名実共に最も活躍しているベテラン蛇腹奏者。幼少から伝統音楽に親しみ、数々のボックス奏者から影響を受けたが、超がつくほど才能に溢れた彼の究極的テクニックと、幅広い感性で様々なバンドや企画に関わっている。

・David Munnelly / Swing (1999)
・David Munnelly Band / By Heck(2006)
・同/Tight Squeeze(2009)
・同 / Live(2007)
・David Munnelly / Aonair(2017)
・Munnelly ? Flaherty ? Masure / Whenever(2006)
・David Munnelly & Mick Conneely/ Tis What It Is(2012)
・M!)rga / Same (2009)
・M!)rga / For the Sake of Auld Decency (2013) …その他

■PADDY O’BRIEN(パディー・オ・ブライエン)

レジェンド的ボックス奏者と同姓同名、出身件も同じという事で、より詳細な出身地Offalyの、と但し書きされる場合も多いが、れっきとした現在も活動中のベテラン奏者。旧レジェンド氏同様、多くの自作曲もあり、レパートリーを含めた曲集が出版されている。長らくアメリカに居をおいてLiz Carroll, 等米国のミュージシャンとの共演も多い。

・PADDY O’BRIEN / THE SAILORS CRAVAT
・PADDY O’BRIEN / Stranger at the Gate
・Paddy O’Brien (button accordion), James Kelly (fiddle),
and D!)ith!) Sproule (guitar and vocals)
/ Traditional Music of Ireland

■JOE BURKE(ジョー・バーク)

1939年Galway東部出身。幼少の頃からボタン・アコーディオンを始め、アイルランド屈指の奏者として活躍し、母国では、フィドルのAggie Whyte、フルートのPaddy Carty等と活動を共にし、度々活動の拠点とした米国では、 フィドルのAndy McGann、ピアノのFelix Dolanとのトリオ等、数々の名演奏を展開した。

1992年から郷里に戻り、演奏活動、後進の指導に当たっている生けるレジェンドの一人。

<ソロアルバム>
・Joe Burke (1973)
・The Tailor’s Choice (1983)
・Happy To Meet Sorry To Part (1986)
・Pure Irish Traditional Music On The Accordion (1997)
・The Morning Mist (1999)

<バンド、デュオ、トリオ等>
・Sean McGuire and Joe Burke / Two Champions (1971)
・Joe Burke and Charlie Lennon :
/Traditional Music of Ireland (1973).
/The Bucks of Oranmore (1996).
/The Morning Mist (2002)
・Joe Burke, Andy McGann and Felix Dolan
/A Tribute to Michael Coleman (1966)
・The Funny Reel / Traditional Music Of Ireland (1979)
・Joe Burke, Brian Conway, and Charlie Lennon
/A Tribute to Andy McGann (2007)

■Johnny O’Leary(ジョニー・オ・レアリー)

1923年生まれ、2004年没。前号でご紹介したJackie Dalyと同じく、Sliabh Luachra(シュリーヴ・ルクラ)地方を代表するボックス奏者。フィドルのPadraig O’Keeffe、Denis Murphy、Julia Clifford等と.数々の名演奏を繰り広げた伝統音楽界のレジェンド。

彼の得意だったポルカやスライドのレパートリーは、現代の数多くの演奏家から愛され続けていて、彼の名前の付いた曲が無数にある。孫でやはりボックス奏者のBrian O’Learyがつい先日来日公演を行った。

・Music from Sliabh Luachra Volume 5: Johnny O’Leary -.
Music for the Set (1976-77).
・An Calmfhear/The Trooper (1989)
・The County Bounds Ossian, (1999)
・Johnny O’Leary of Sliabh Luachra:
Dance Music from the Cork/Kerry Border, (1995)

■Johnny Connolly(ジョニー・コーノリー)

Connemara地方出身のボックス奏者。特にアイルランドではmelodeon(メロディオン)と呼ばれる1列のボタン・アコーディオンの名手として名高い。

・An tOile!)n Aerach (1993)
・Drioball na F!)inleoige (1998)
・An Mileoidean Scaoilte (2004)

■Johnny Ó Connolly (ジョニー・オグ・コーノリー)

Johnny Connollyの息子で9歳の頃からボタン・アコーディオンの演奏を始め、数々の賞に輝いた、現代の伝統音楽界をを代表する演奏家の一人。ヨーロッパや北米等活動の幅は広く「Lord of the Dance」のメンバーでもあった。優れた作曲家としても名高い。

・The Bees’ Wing(1990 )
・Dreaming Up The Tunes ,with Brian McGrath(1998)
・Dusk Till Dawn , with Charlie Lennon (2005)
・Aisling Yoshua(2011)・Siar, (2016)

■Conor Keane(コナー・キーン)

クレア地方の中でも音楽の中心地Ennis出身。彼もC#/D機種をメインにpress and drawと呼ばれれる古いスタイルの奏者。切れ味鋭い演奏で、Shaskeen, Arcady、Four Men and a Dogのメンバーとしても活動した。近年は、ブルターニュを拠点にしたり、ダイアトニック式アコーディオンのための作曲家としての活動も行っている。

・Cooley’s House (1993.)
・Oidhreacht (1997)
・Joao de Deus

■Billy McComiskey (ビリー・マッコーミスキー)

ニューヨークのブルックリン出身。少年時代からボタン・アコーディオンでのアイルランド伝統音楽に親しみ、後には全アイルランド・チャンピオンにも輝いたB/C機種の名手。1970年代から、米国での草分け的バンドThe Irish Traditionのメンバーとしての活動して、Celtic Thunder 、THE GREEN FIELDS OF AMERICAとも親交が深い。

90年代からは、フィドルのLiz Carroll、ギターのDáithí SPROULEと共に、バンドTrian でも活動。名実ともに米国のアイリッシュ界を代表する存在。

・Billy McComiskey
/ Makin’ The Rounds(1981)
/ On Outside the Box(2008)

・The Irish Tradition
/ Catchin’ the Tune (1975)
/ The Corner House( 1978)
/ The Times We’ve Had,(1985)

・Trian
/ Trian(1992)
/ Trian II(1995)
/ Pride of New York”(2009) THE GREEN FIELDS OF AMERICA

・ V.A / Absolutely Irish (2007)

・THE GREEN FIELDS OF AMERICA / Same(2009)

■BOBBY GARDINER

1939年生まれ、クレア地方出身でJoe Burke、Tony McMahonと並ぶB/C機種のレジェンドの一人。若い頃には米国に滞在し、Paddy Killoran, Joe Cooley, Ed Reavey等とのセッションの機会も多く、彼の録音活動も米国で始まった。アイルランドに戻ってからも、完璧と言われる演奏スタイルで録音活動やライブを続けた。また、コーク大学等での指導者としての経歴も長い。Tipperary 地方Cashelの Br!) Bor!)と言うグループの一員として、1990年に大阪で開催された「花博で」の催しのために来日し、東京で単独公演も行った。

1列機種の名手、またリルティングが得意な事でも名高い。

<ソロアルバム>
・Bobby Gardiner ? Accordion(1958)
・Memories of Clare(1962)
・Bobby Gardiner at Home(1979)
・The Best of Bobby Gardiner(1982)
・The Master’s Choice(1989)
・THE HIGH LEVEL(2010)
・MELODEON MAD(2018)
・Bobby Gardiner, Mel Mercier, Ann Gardiner, Lynda Gardiner
/The Clare Shout(1995)

■MICK MULCAHY(ミック・マルカヒー)

ケリー地方北部の出身。1972年の全アイルランド・チャンピオン。長年に渡る自身の演奏、録音活動と共に、娘のLouise(フルート、イリアン・パイプス), Michelle(フィドル、コンサーティーナ、ハープ)と共に、家族バンド「The Mulcahy Family」 としての活動でも知られている。

<ソロアルバム>
・& Friends(1990)
・Mick Mulcahy(2009)

<家族バンド>
・The Mulcahy Family(2000)
・Reelin’ In Tradition(2009)
・The Reel Note(2016)

■Dermot Byrne(ダーモット・バーン)

Donegal地方の伝統音楽界を代表するボックス奏者で、1995年〜2013年の間Altanに在籍。幼い頃から同じくボックス奏者だった父Tom!)s O’Beirnから手ほどきを受け、数あるB/C奏者の中でも極めて流暢で完璧なテクニックは定評がある。

・Dermot Byrne (1996)
・2 Worlds United (2001)
・Dermot Byrne & Floriane Blanke

■Seamus Begley(シェイマス・ベグリー)

西部ディングルのゲールタハト地域出身。地域で有名な音楽一家に育ち、少年時代からボックス奏者&シンガーとして活動を続けた。1990年代には、オーストラリア出身の天才ギタリストSteve Cooneyとのコンビでも活躍した。ポルカやスライドに代表されるKerry &Cork地方の伝統音楽の魅力を余すことなく継承する演奏者。

・Seamus & M!)ire Begley
/ An Ciarra!)och Mallaithe (1972),
/ Plancsta!) Bhaile na Buc(1989)
・S!)amus Begley & Stephen Cooney & M!)ire Begley / Meitheal(1993)
・Beginish / Stormy Weather (2001)
・Ragairne / Reveling at SameNight (2001), / Same (2002)

■Brendan Begley(ブレンダン・ベグリー)

Seamusの弟。兄と同じくボックス奏者&シンガーとして活動する、伝統音楽界の重鎮。The Chieftains、The Boys of the Lough、Beginish等とも共演。

・Brendan Begley
/ It could be a good night yet!
/ We Won’t Go Home ‘Til Morning(1997)
・Beginish, (1996)

Colleen Raney——アメリカで伝統をうたう試み・その12:大島 豊

コリーンはつい先日新作《Standing In Doorways》をリリースした。筆者はIndiegogo でサポーターの一人になったので、いち早くファイルを入手した。力作だ。今回もトレヴァー・ハッチンソンのスタジオでの録音。クレジットがついていないので不明だが、トレヴァーも参加している他、ハンツ・アラキ以下、いつもの面々がバックアップしていると思われる。CDが届いたら、あらためてとりあげたい。

コリーン・レイニィのうたを聴くシリーズ、コリーンの3作め《CUAN》の最終回になる。

11.Lads of the Fair03:03Brian McNeill

スコットランドのシンガー、フィドラー、マンドーラ奏者、そしてソングライター、小説家でもある Brian McNeill の曲。かれが最初に作ったオリジナルでかつ最も有名なもの。マクニールはバトルフィールド・バンドの創設メンバーとして名を挙げ、この曲は1980年のバンドの6作め《Home Is Where The Ban Is》に初出。故郷で毎年開かれるフェアつまり祭の様子に霊感を得て作ったもの。スコットランドの讃歌と受取られたのだろう。

まずはそのオリジナル。ブライアン・マクニールのリード・ヴォーカルは悠揚迫らぬテンポ。スコットランドに優れたうたい手数多ある中でも有数のうたい手の一人として、まずは見事な歌唱。初の自作ではあるが、気負いも衒いもないのはさすが。コンサティーナが終始抑えめの音量でハーモニーをつけ、マンドリン、後半はフィドルも加えてバックは初めシンプル、段々厚くなる。マンドリンもフィドルもマクニール本人。この6作めでバトルフィールド・バンドは初めてハイランド・パイプをメンバーに迎えるが、主にダンス・チューンでの参加で、この歌では入ってこない。ちなみにこのアルバム全体が、バトルフィールドのものとしてベストの1枚。

ボーイズ・オヴ・ザ・ロック、バトルフィールド・バンド、タナヒル・ウィーヴァーズ、ウィッスルビンキーズなどが1970年代に活動を始めたスコットランドのバンドの第一世代とすれば、1990年代、やや沈滞していたスコットランドのシーンに火をつけた第二世代を代表するのがアイアン・ホースとオールド・ブラインド・ドッグス。そのオールド・ブラインド・ドッグスが2003年の《The Gab O Mey》でとりあげる。ここでのリード・ヴォーカルはソロとしての活動も多いJim Malcolm。ギター、シターンのカッティングをベースに、ホィッスルとフィドルがカウンターをつける。間奏で Johnny Hardie のフィドルがメロディをジグ風に演るのが粋。このバンドのウリであるパーカッションが後半に隠し味的に入るのもシャレている。バトルフィールドよりもわずかに速く、明朗な演奏。ここはとにかくマルコムのヴォーカルがすばらしい。

コリーンの版はまずコルムの切れ味抜群のギターのカッティングが鮮烈。それにのせるコリーンの歌唱も、このアルバムの中では最も弾けていて、この歌を唄える歓びに満ちる。ここに選んだ中でもこれが一番唄いたかったと言わんばかりだ。自身のバゥロンをほとんどドローン的に低く、小さくバックに配し、明るく唄いあげながら気持ちのいい緊張感で引き締める。ラストもすぱりと切りあげて、前二者のスコットランド勢とは対照的。

アルバムはコルムがリード・ヴォーカルをとる曲で締められる。

12.Wild Mountain Thyme*04:03England

有名曲で録音は無数にある。ここでは右にフィンガーピッキングのギター、左に本人のヴォーカル、中央にコリーンのコーラスという配置。この人もうたい手として悪くなく、むしろアルバム1枚聴いてみたい人ではある。

ようやく聴き終えて、やはりこれはすばらしい録音だと思う。コルム・マカーシィのギターは想像力に富み、全体としてはシンプルに聞えるが、新鮮で、切れ味がよく、繰り返し聴くに耐える。コリーンの唄を支えるよりも、それに対置して、そうとは見せないながら、うまく煽る。コリーンもそれに応え、ギターとの対話を楽しむように唄う。理想の組合せだ。アンサンブルがバックの時よりも、かえってコリーンの唄が前面に出る。最新作はまだ十分聴き込んでいないが、今のところではこの《Cuan》が彼女のベストだ。録音もすばらしい。なるべく、質の良いシステムでじっくりと聴いてみたい。

次回はやはり順番に次作、2013年の《Here This Is Home》に移ろう。ここでもニック・ジョーンズから始まる選曲が面白い。新作でも思うが、コリーンの選曲のセンスはなかなかのものではある。

同時!?:field 洲崎一彦

今回は、具体的に楽器を演奏するお話しになります。先日、セッションに参加した若いギタリストの話です。彼はアイリッシュ独特の DADGADチューニングも使いこなすそこそこの経験があるギタリストなんですが、その日のセッションは参加者が少なかった。それで彼のギターがことのほか良く聞こえたのでした。そして私はそこでヘタなフィドルを弾いていました。

私は必死にメロディを弾いているのですが、彼のギターの音が耳に入って来るとどんどん後ろに引きずられるというか、後ろから首根っこをつかまれ何かに引っ張られるような感じがしてメロディを思うように前に進めることができません。これは非常に気持ち悪い感覚。

それで、いっそのこと、彼のギターをよく聴いてそれに合わせるようにしてみたのですが、そうするとどんどん減速して来るような気がして今にも止まるのではないかという気持ちになり私はフィドルを弾き続けることができなくなってしまってひとりだけ止まってしまいました。これは本当に気持ち悪い感覚。

そこで、セッションが終わってから彼と少し話をしたのでした。キミはまわりの音をどういう風に聴いてギターを弾いているのか?と。

案の定、彼は自分のギターがそのような演奏になっていることは気づいておらず、まわりの音はちゃんとよく聴いています!と言うのでした。

それで、ピーンと来ました。彼はよく聴いていたのです。どういう事かと言うと、聴きすぎていたということですね。

一般的に楽器の合奏をする場合は他の楽器の音をよく聴きなさいと言われます。が、この聴くという作業は実は人によってやってることが微妙に違うのです。ついつい自分がリスナーになって音楽を聴くように聴いてしまう人がけっこういます。自分も合わせて楽器を弾く場合にこういう聴き方をするとまわりと同時に音を出すことは出来なくなります。確実に少し遅れます。が、本人はまわりの音をよく聴いて演奏をしていると信じているのでちゃんと合っていると感じてしまう。

まわりの楽器と同時に音を出さないと合奏にはならないというのは誰でも判る理屈だと思うのですが、この同時というのが実はけっこう大変な事なのですね。

音楽の基礎練習でもあまりこれを取り立てて教えてもらえる場所は少ないと思います。恐らくメトロノームを鳴らして、これに合わせて弾く練習をしましょうという事ぐらいしか出来ないでしょう。が、このメトロノームを聴きすぎてしまうと同じことが起こります。微妙に遅れます。が、メトロノームは機械なので何も言ってくれないし遅れているこちらに合わせることもしない、というわけです。

つまり、一緒に合わせている生身の人間が指摘しないと本人はこれに気づく機会が無いというわけです。が、指摘されたとしても、この彼は、はあ、、、という感じでポカンとしてしまうようなお話のようで、ちゃんとビシッと伝わらない。変に悩ませてしまっても申し訳ない思いがするし、あ、こんな事言わなければよかったと、こちらもちょっと後悔してしまったりもしました。

が、誰かが言わないと彼はずっとこの問題には気づかない。どうしたらいいのでしょう。

実は、この同じ問題を抱えている演奏者は実は彼だけではなく意外に多いのも確かなんです。ギターやバウロンのような強制的にリズムを出して来る楽器の場合は判りやすいのですが、メロディを弾く人にもこれはけっこう多い。が、メロディ楽器の場合はあまり目立たないというかなんとなく他の楽器にまぎれてしまえるという面があります。

そして、これを指摘するのも実は非常に微妙な話になってしまって難しい。単にキミは聴き過ぎだと言うと今度はまったく聴かなくなって、ひとりでどんどん前に行ってしまうような演奏になってしまう。この辺をうまく説明するにはどうしたらいいのか、非常に悩んでしまうのです。

では、私自身はいったいどうしているのか?という事ですね。

私自身の体感から言うと、ちょっと気を抜くと前述のギターの彼のようにリスナー耳でまわりの音を聴いてしまうことは自覚しています。常に同時に音を出すということを意識するとものすごい集中力が必要になってすごく疲れてしまいます。なので、セッションを通してずっとこの同じ集中力で演奏を続けることなんてちょっと出来ない。

では、何にそれほどの集中力を使っているのかという事ですよね。うーん。これは何と言えばいいのかなかなかうまく言えないのですが、やはり、同時であることとしか言えないものがあります。しかし、これが本当に同時になるとそれまでには無かった高揚感が感じられてすごく気持ちいいのは確かです。そして、こういう気持ち良さを味わえるセッションはごくまれにしかありません。

何故かというと、私がその時に同時を目指す相手の演奏者。この演奏者も私と同時に音を出す事に集中してくれないとこの試みは成功しないからです。その演奏者がこちらの音を聴きすぎるタイプであったり全く聴かないタイプであったりすると私の試みは失敗に終わります。

なんかもう本来感覚的な話をこねくり回して文字にしているようですごく理屈っぽい話に聞こえるかもしれませんが、本当はこういう事をほぼ無意識に行っている演奏者も数多くおられるとは思います。私のように過度な集中力を必要とせずにやってのける人達もたくさんおられると思います。そういう方から見れば、今さら何を言ってるのだ?というお話しなのかもしれません。

が、確実に私のようにもがいている者もいれば、前述のギタリスト君のように気がついていない人達もいる、というのがアイリッシュセッションの場である、ということを意識してくれる演奏者が増えることでセッションのサウンドはもっともっと良くなると信じるものです。

そうですね。こういう指摘もセッションの雰囲気を壊すことになるのでよほどの機会が無いとなかなか出来るものではありませんね。

それも含めて難しいお話しです。(す)

オーケストラアレンジで聴くケルト・北欧の伝統音楽第8回 鷺巣詩郎のDerry AirおよびAuld Lang Syne:吉山 雄貴

今回はいつもとはおもむきを変え、非クラシック音楽の作品のおはなしです。ジャンルは……、アニメ音楽! なにも今にはじまったことではありませんが、アニメへの民族音楽の進出がいちじるしいです。

早くも、ジブリ映画「耳をすませば」(1995年。音楽は野見祐二)のサウンドトラックのライナーノーツに、ケルト音楽への言及がみられます。実際に映画のクライマックスの、あのセッションのシーンで演奏されていた楽器は、ケルト音楽ではなく古楽のものです。が、のちの「ゲド戦記」や「借りぐらしのアリエッティ」のことを考えると、この時期から注目されていたのかもしれませんね。

「魔法遣いに大切なこと」(2003年。音楽は羽毛田丈史)では、劇中のBGMに、ホイッスルやアイリッシュ・フルートなどが使われています。のみならず、Over The Moor To Maggieという、アイルランドのリールが流れる場面もあります。

Over The Moor To Maggieの動画。サントラの音源ではありません。

最近私がどう目させられたのは、「ガールズ&パンツァー」(2012年。音楽は浜口史郎)。この作品。登場人物のそれぞれが、いずれかの国の戦車を乗りまわすという設定らしく、BGMのうちかなりの割合を、各国の行進曲が占めます。

そしてどういうワケか、本物の行進曲ではなく、民謡を行進曲風に編曲したものも、少なからず用いられています。私が知っているものだけでも、アメリカ民謡2曲、ロシア民謡2曲、イタリア民謡(元CMソング)1曲!挙げ句の果てに、Säkkijärven polkkaなるフィンランドのポルカまで、登場する始末。なんでも、劇中で登場人物がカンテレでひいたっぽい。アニメ自体は観ていないのに(私の住む地域では放送されない)、サントラだけ一気に愛聴盤の1つになりました。

Säkkijärven polkka。これも、劇中で用いられたのとは、別の音源です。

さて、90年代を代表するアニメに「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)があります。音楽は鷺巣詩郎(b.1957)。近年も、映画「進撃の巨人」(2015年)や、「シン・ゴジラ」(2016年)のスコアを手がけています。エヴァンゲリオンは社会現象を引きおこした作品なだけあって、CDの商品の点数も、おびただしい量にのぼります。その中で、伝統音楽が含まれているのが、下記のもの。

【OUTTAKES FROM EVANGELION】

これは、アニメのBGMに使用する楽曲として用意されながら、実際には不採用になってしまったものや、オーケストラの演奏と合唱を別々に録音して、それを編集で1つに混ぜ合わせる前の段階の音源などを、集めたディスクです。製作段階で未完成の状態のものさえ、商品化しうる程度の需要が見こめるなんて、さすがエヴァって気がいたします。

で、これになんと、Derry AirとAuld Lang Syneを、オーケストラで演奏するようアレンジしたものが、収録されています。

Derry Airは、なにかのイベントで上映された短いアニメーションにおいて、実際にBGMとして用いられたもよう。

https://www.youtube.com/watch?v=oJm0JL9TAec

ロボットアニメのエヴァンゲリオンに、Derry Air。一見、ミスマッチに思えます。ところで、上述のアニメーション。タイトルを、Until you come to meといいます。これは、Danny Boyの歌詞の最後の部分。

とても古く、作者も分かっていないDerry Airには、昔からなんとおりもの歌詞がつけられてきました。Danny Boyは、そのうちもっとも有名なもののタイトル。今や、この曲そのものの名前として、Derry Airよりもこちらのほうが、広く通用していると思われます。作詞者は、イングランドの作詞家フレデリック・ウェザリー。内容は、「あなたが帰ってくるころには、私はもう生きてはいないだろうけれど、あなたはきっと私の墓所を訪れて、『愛してる』といってくれるから、それだけで私は安らかに眠ることができる」、というもの。

一般に、出征する息子に対する母の気もちを歌ったものだ、といわれています。その戦争について、アメリカの南北戦争だとか、IRAであるとかいったことが、まことしやかに語られています。母ではなく父の心情を表している、という記述もみかけました。ちなみに私、対訳を見ながらこの歌を聴いたとき、不覚にも泣きました。

この歌とエヴァの接点として、1つ思い浮かぶのが、コミック版の最終話。エヴァはアニメ版、劇場版、コミック版とで、それぞれ物語の展開が大きくことなります。そのうち、貞本義行氏によるコミック版は、アニメの放送開始よりも前から連載がスタートしていたにもかかわらず、数次の中断を経て、完結までに20年近くの歳月を要しました。

そのコミック版の最終話が、2013年に発表された際は、ヤフーニュースに記事が掲載(しかも複数!)されるほど、話題になりました。

その最終話の内容が、Danny Boyの歌詞と微妙にリンクしている。そんなふうに感じるのです。この場であらすじをおはなしするワケにはまいりませんが、興味のあるかたはぜひご覧ください。

Derry Airのアレンジは、それほど大きくは盛り上がらない、しっとりした雰囲気のものでした。一方のAuld Lang Syne。これは第5回でも言及したとおり、「蛍の光」のことです。こちらは、「オーケストラの醍醐味ここにあり!」といった感じの、壮大な楽曲に生まれ変わっています。特に最後の部分。

スネアドラムを率いて、ハイランド・パイプス隊が勇ましく行進します。そして金管楽器がこれと、縫い針のように絡み合います。めっちゃカッコいいです。

ライナーノーツでは、鷺巣詩郎氏がじきじきに、「『蛍の光』史上最高の名演」といった趣旨のコメントを寄せています。このおかた、ご自身がかかわったサウンドトラックのライナーノーツは、たいがい自ら記しているのですが、その際、口をきわめて演奏者のことをほめるほめる。

あたかも、楽曲に対する理解力と演奏技量を両立しうるミュージシャンが、世界中さがしてもほかに誰一人いないかのごとく、激賞するのです。あまりにも着飾ったコトバが並び、「こりゃいくらなんでも過剰やろ」と感じることもしばしば。が、このCDに収録されたAuld Lang Syneに関しては、まぎれもない真実を述べています。こんなに勇壮なAuld Lang Syneは、それまで聴いたことがなかった!

ところで、「エヴァンゲリオン」と「進撃の巨人」と「シン・ゴジラ」の音楽はすべて、同じオーケストラが演奏しています。名前は、The London Studio
Orchestra。鷺巣氏が書いた音楽以外では、いちども耳にしたことのない楽団です。London Symphony Orchestra(ロンドン交響楽団)なら、知ってるんだけどな。

同様に、指揮者も毎回同じ人で、Nick Ingmanといいます。彼は、かの「リバーダンス」において、ビル・ウィーランの書いた原曲に、オーケストラで演奏するための編曲をおこなった人物。

彼とのやりとりを通じて、鷺巣氏がケルト音楽に関心をもったのかな、と私な
どは想像してしまうのですが、もちろん憶測の域を出ません。

ざっくり学ぶケルトの国の歴史(15)若者たちは血気盛んなアイリッシュ:上岡 淳平

アイルランドではひどい大飢饉の影響で、くすぶっていた独立の夢がかなりしぼんでしまった。

そんな中、青年アイルランド党の生き残り幹部で新しい団体を作ったりもしたんだけど、これはあまり機能しなかったし、運動が広まることもなかった。ただ、ひとつだけこれまでと違う点は、支部がニューヨークにあったことだ。飢饉でアメリカに渡った後も、国を憂う尽忠報国の士がいたんだね。「ふるさとは遠きにありて思ふもの」ってなわけで、むしろ移民した連中の方が愛国心は強かったと言われている。

そんな頃、英国では改革好きな首相が現れた。首相に就任した途端に、数多くの斬新(今では当たり前)な法案を通したそうな。その中に「英国国教会はアイルランドから出ていきましょう」というのがあるんだ。ちょっとえらいじゃないか。でもアイルランド問題に取り掛かろうとした矢先、お仲間さんが反旗を翻しご破算。

アイルランドではおお〜っと盛り上げさせられて、突然ふわっと立ち消えになったもんだから、やっぱりこの問題は自分たちでちゃんと扱おう!ということになった。

さて、その頃ダニーの後継者とも目されていた人物が現れていた。パーネルおじさんだ。彼ほど評判も良くないし、正直謎の多いやつだけど、政治的戦略に強いキレ者だった。だから彼が代表の間にずいぶんとしっかりした政治組織がつくられたんだって。

でもカトリックまみれの状況の中で不倫(御法度)がバレてしまい一気に失墜。スキャンダラスな終焉は、なんだか英国の王室をなぞったようで嫌な感じだね。

絶対的なリーダーであった、パーネルおじさんを失ったアイルランドだけれど、青年アイルランド党から続く文化の復興は、実は順調に進んでいた。ゲール語(アイルランド語)の定着運動が本格的に始まり、ゲール人体育協会なんてのも発足。それは、ゲール系のスポーツをみんなでプレイしてアイルランドの伝統を盛り上げようぜ!という、なんとも健康的なリバイバル(復興運動)だった。

なんとなく文化、体育、文学と並べると健全に思えるけれど、この頃のアイルランド独立を望む人たちは、もれなくサイヤ人化していた。そう、戦闘民族だったんだ。独立に向けた運動はすべて武力とともにあるって言われるぐらいに、徹底した武力闘争を信条としていたんだって。そう思うと怖いよね、サイヤ人。そしてえらいよね、ブルマ。

そんな中、時代に逆らい武力に訴えない政策を打ち出した「シン・フェイン」という政党が立ち上がった。

スタートこそ地味だったけど、やることはなかなか大胆だった。それは、「アイルランドの議員が、なぜロンドンで話し合わないといけないのか!」と言って、アイルランド議員を国へ戻し、アイルランド議会ってのを勝手に作ったんだ。WOW!

さて、ダニーが行きたがらなかったアルスター地方(アイルランドの北側)では、英国寄りばかりが暮らしていたので、そんな強引なことが許されるか!と怒りだし、内乱の危機に直面した。

そんな危機的状況を見かねて、英国政府も「アイルランド自治法案」(アイルランドを自分たちで治めてOK)を可決。さぁ、これからアイルランド独立に向けてラストスパート!というところで第一次世界大戦がはじまっちまった。(いつも寸前に何かある運のないアイリッシュ)

1900年〜1910年頃のそろそろ近代なケルト話。

アジアのケルト音楽 エピローグ アジアのケルトの未来:hatao

これまで中国、台湾、韓国、東南アジアのケルト音楽(主にアイリッシュ)の状況を紹介してきました。それぞれの国で、それぞれの状況に応じたやり方で音楽を楽しんでいることがお分かりいただけことと思います。最近facebookなどでそれぞれの国の音楽ファンが繋がってきたとはいえ、交流はまだ少なく、発展の可能性があると感じています。

私は今この原稿を北京から書いています。今回は10日間、重慶、山西省太原市、北京を回って、各地のアイリッシュ・ファンと交流をしてきました。私が中国に通い始めた頃とは国の状況は大きく変わり、海外の情報がより早いスピードで入ってくるようになり、また、中国を訪れる演奏家も増えてきました。重慶で出会ったフィドルを弾く友人は来月、スコットランドのグラスゴーに音楽留学をするそうです。本場で経験を積んだ演奏家が育つと素敵だなと思います。

来月は韓国のアイリッシュ・ミュージック・フェスティバルに参加して演奏とレッスンをします。そのために、韓国語の習得に励んでいるところです。今年は7,8,9月を東アジアの国々を訪れる年となりました。そして10月21日に大阪で企画しているアイリッシュ・カーニバルには、韓国や台湾からアイリッシュ・ファンがたくさん参加する予定です。

日本のケルト系の海外への躍進も最近はよく耳にします。私の経営する「ケルトの笛屋さん」京都のfield店では、ケルト/北欧音楽のCDを積極的に取り扱っており、おそらく日本でも最大級の品揃えとなっています。今後はネットを通じて英語で日本のケルト音楽を発信する事業もするつもりです。

私はこれからもアジアの国々を訪れて、発展に貢献できればと思っています。最近はアイルランドに留学や音楽旅行をする人々が多いので、もしアイルランドで出会うことがあれば、ぜひ一緒に楽しい時間をお過ごしください。きっとアジア人同士、意気投合することと思います。

編集後記

今回も大容量でお送りしました。読むのが大変だったかと思います。少し涼しくなり、過ごしやすくなりました。8月末には滋賀県高島の恒例のアイリッシュ・ミュージック・キャンプもありますね。短い夏の終わりを楽しみましょう。

クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月2回刊)

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クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月2回刊)
発行元:ケルトの笛屋さん
Editor : 竹澤友理

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