【hatao編】日本のフルート/ホイッスル奏者へのインタビュー

2020年6月27日に開催された日本のフルート/ホイッスル奏者のオンライン・ミーティングでは、参加者に事前に質問事項を送り、インタビューを行いました。

このインタビューはとても貴重な資料として、日本のケルトの笛コミィニティーに貢献することになるでしょう。

みなさんの貢献に、心から感謝します。

シリーズ第一回目は、当店代表hataoのインタビューからお届けします。

5000文字超の大作です!

フルートについて

――現在吹いているフルートについて教えてください(職人、材質、モデル、キーの数、購入年など)

hatao:本体 2008 年(頃?)Thomas Aebi 製作のコーカスウッド製9キーのボディ、Rudall モデル。

頭部管は Pol Jezequel のコーカスウッド製です。

――その素材を選んだ理由は何でしょうか、また他の素材と比べたときの特色はなんだと感じますか?

hatao:⾧くブラックウッド製を演奏してきましたが、コーカスウッドの響きに興味を持って注文しました。

同じ条件でブラックウッドと比べたことがないため素材の持つ特徴についてはよくわかりません。

同じコーカスウッド製の Aebi と Jezequel の頭部管を付け替えて比較すると、素材よりもアンブシュアのカットによる違いが音色に与える影響のほうが大きいと感じています。

――デザイン的な好みはありますか?(キーの取り付け方、キーの形、リングの形など)

hatao:伝統的なブロック式のキーマウント、キーはソルトスプーン型、銀リングが好きです。

頭部管は、以前使っていた Aebi にはスクリューヘッドを備えていましたが、Jezequel にはありません。

しかし無くても困ることはないので、不要だと思っています。

――足部管の低音キーは使用しますか?またその理由や使用する状況について教えてください

hatao: よく使用します。

一番の理由は、F 調や C 調の曲を演奏できるからです。

低音の B も出るので、Bm 調で最低音の B まで音域をめいっぱい使うこともあり、大変気に入っています。

――第三オクターブを演奏しますか?またそれはどのようなときですか?

hatao:G まではよく演奏します。さらに上の A や B はアイリッシュでは使用頻度は少ないですが、オリジナル曲を演奏するときに使うことがあります。

インパクトが強いので音量をコントロールするように気をつけています。

――あなたにとってフルートの「いい音色」とはどのような音色ですか?

hatao: 太く・明朗で・深みがあり・雑音が少なく・反応が良く・低音から高音までバランス良くしっかりと鳴る音です。

――D管以外のフルートは演奏しますか?またどのようなときに演奏しますか?

hatao: Bb 管と F 管を常時演奏しています。Bb 管は低くて暗い音色が気に入っていて、コンサートのうち 3曲くらいは使用します。Bb 管をしっかりと太く鳴らせるようにしたいです。

F 管はスピード感のある曲や音を遠くに飛ばしたいときに使います。

ときどきピッコロも使います。

――あなたにとって理想のフルートとは、どんな楽器ですか?

hatao:音程が良く、息への反応が良く、強弱が付けやすい、小さな音も魅力的にしっかりと鳴らせる、音色が単純ではなく多彩であること。デザイン面ではキーが手によくなじみ、バネが硬すぎずちょうどよいこと。

――現在の楽器まで、どんな楽器を経てきましたか?

hatao:
(1) 日本人が作った竹製の D フルートを借りて横笛の練習を始めました。
(2) 1 年後に Eamonn Cotter キーレス・ブラックウッド
(3) 3 年後に Eamonn Cotter 4 キー・ブラックウッド
(4) 途中 Seery のポリマーフルートが並行し
(5) 5 年後に Thomas Aebi のコーカスウッド製 9 キーフルート
(6) Thomas Aebi のブラックウッド製 9 キーフルート
(7) Pol Jezequel のコーカスウッド製 8 キーフルート

→(5)を買い戻して、Pol Jezequel の頭部管と接続して使用しています。

――現在のフルートについて、気に入っている点・不満な点を教えてください

hatao: Aebi, Jezequel それぞれに不満な点があったのですが、それらをつないで使っている今は、最高のフル ートを手にしたと思っています。

――今気になっている楽器職人はいますか?

hatao: 新進の職人が充実していますので、色々と吹いてみたいとは思いますが、今以上に気に入った楽器と出会えるとは思っていません。

さしあたり、Solen Lesouef, Stéphane Morvan, Steffen Gabriel は気になります。

ホイッスルについて

――現在吹いているホイッスルについて教えてください

hatao:Michael Burke のアルミ製セッション・モデルです。

――その素材を選んだ理由は何でしょうか、また他の素材と比べたときの特色はなんだと感じますか?

hatao: ブラスと比べて音色が好みで、軽いので取り回しがしやすく、音がよく飛び、強弱のコントロールがしやすいと感じています。

――デザイン的な好みはありますか?

hatao:チューナブル、円筒管ボア、吹口は金属をそのままくわえるのではなく人工素材が良いです。

――第三オクターブを演奏しますか?それはどのようなときですか?

hatao:D や E は、まれにあります。

かなりうるさいので、コンサートでも 1 回くらいです。

――あなたにとってホイッスルの「いい音色」とはどのような音色ですか?

hatao:澄んだ音色かつ単純すぎない音。

幅が広くフルで鳴っている感じ。

――D管以外のホイッスルは演奏しますか?また、どのようなときに演奏しますか?

hatao:たまに Burke のアルミ・ローF 管を演奏します。

あまり使用頻度は高く有りません。

――あなたにとって理想のホイッスルとは、どんな楽器ですか?

hatao: 第一に音程が正しく吹けること。

澄んだ音色、音量は大きめで、強弱がつけやすく、狙った音を当てやすい楽器。

――現在の楽器まで、どんな楽器を経てきましたか?

hatao:Generation → Susato → 現在の楽器

――現在のホイッスルについて、気に入っている点・不満な点を教えてください

hatao: 上記「理想のホイッスル」の条件をすべて実現している点が気に入っています。

また、入手しやすさや、この楽器の価値を考えると価格は安いくらいだと思います。

不満な点はありません。

――今気になっている楽器職人はいますか?

hatao:ホイッスルについては、50 本くらい吹きましたが現在の Michael Burke を超えるものには出会っていません。

強いて言うなら Jonathan Swayne はまったく個性が違う楽器なので、使いたいと思うこともありますが、音楽性が全く違ってきてしまうので、使うに至っていません。

――ロー・ホイッスルは演奏しますか?どのようなときに演奏しますか?

hatao: Goldie のローD ホイッスルを演奏します。

ロー・ホイッスルには、フルートでは表現できない表情があると考えています。

ダンス曲ではなくオリジナル曲やスローな曲に向いていると思います。

フルートとロー・ホイッスルで同じ曲を吹いても、同じ曲になりません。

――同じキーの複数のティン・ホイッスルを使い分けますか?使い分ける方は、その使い分けについてどのように考えていますか?

hatao: 使い分けません。

笛が違うと演奏性が全く変わるので、同じキーのものは器用に使い分けられないと思います。(フルートやリコーダーなど全く違う楽器であれば、使い分けは問題ありませんが)

――フルートとホイッスルで同じ曲を吹くとき、演奏技術面において変えていることはありますか?

hatao:ホイッスルではタンギングを主に使います。

ホイッスルではフルートほど強弱表現が付けられないので、音色やニュアンスを工夫しています。

音楽家として

――影響を受けた伝統音楽のフルート・ホイッスル奏者を挙げてください(5名まで)

hatao:
フルート…
Matt Molloy の装飾音やアーティキュレーション、
Kevin Crawford の安定感、
Jean-Michel Veillon の情熱的でニュアンスに富んだ演奏、
Chris Norman のテクニックや繊細な強弱表現や古楽的な表現、
Sylvain Barou のテクニックと多様なジャンルへの応用

ホイッスル…
Geraldine Cotter のリズム、
Mary Bergin の装飾音やアーティキュレーション、
Cormac Breatnach の表現力と即興性、
Fraser Fifield のクールな演奏、
Joanie Madden のスローな曲の演奏

――管楽器奏者以外の影響を受けた音楽家を挙げてください

hatao:音楽性は、幼少期はゲーム音楽(植松伸夫)、イージーリスニング、のちにクラシック音楽。

演奏面においては管楽器奏者ですが、篠笛やリコーダーなど、色々な笛を参考にしています。

――フルートやホイッスルを学ぶ人が聴くべきCDを教えてください

hatao: 情報量が多すぎると混乱するので、最初は Matt Molloy の 1st ソロアルバム、Mary Bergin の Feadoga Stain の 1 枚目を聴き込めば充分です。

――自分が伝統音楽を始めたときの最初の困難はなんでしたか?

hatao: 20 世紀末、教室や日本語の情報がなかったことです。

インターネットは発達しておらず、YouTube もありませんでしたし、在日アイルランド人奏者もいませんでした。

視覚的な情報を得ようと思えば、アイルランドに行くしかなかった時代です。

現在は恵まれていますね。そんな事情があり、自分はどんどん情報を提供しようと思っています。

――楽器演奏による手や身体の故障に悩まされたことはありますか?あるとすれば、どんな症状でどのように克服しましたか・あるいは受け入れましたか?

hatao:30 歳のころ、ジストニアが疑われる症状を発症しました。

特定の条件下で左薬指が動きにくく、カットやロールなどの装飾音に支障が出ました。

東京まで通ってマッサージや筋肉注射など色々試しましたが改善せず、しかし悪化もしないので受け入れることにしました。

一時は出口が見えず演奏家を辞めなくてはいけない恐怖と戦いましたが、装飾音の運指を変更し、現在は活動を続けられています。

――初期の頃の練習方法や日課はありましたか?

hatao:フルートを初めて 5 年目の頃は、トレヴァー・ワイのクラシック・フルートの教則本を使ってロング・トーンや音階練習やタンギング、アーティキュレーションの練習を日課にしました。

かなり効果があったと思いますし、アイリッシュ以外の音楽を演奏したい奏者には薦めたいです。

――現在の決まった練習方法や日課があれば教えてください

hatao: 特にありません。

気に入った曲を練習したり、演奏をコピーしたり、コンサートのために曲を練ったりしています。

――フルート・ホイッスル以外に取り組んでいる楽器はありますか?

hatao:リコーダー、篠笛、オカリナ、各種バグパイプなどを気が向くままに練習しています。

カルロス・ヌニェスのように何を吹いても自分の音楽になるようになりたいです。

――音楽家として最も大事にしていることや力を注いでいることはなんですか?

hatao: 常に自分らしくあること。

自分自身の理想の世界を音楽で表現すること。

音楽の楽しみ・喜びを独り占めせずに分かち合うこと。

――今一番取り組んでいるプロジェクトや、これから手掛けたいことについて教えてください

hatao:史上最高のホイッスル/フルートの解説書と教則本を書くことが使命です。

そのためには膨大なリサーチと検証、多くの人の協力が必要です。

楽しんで、やっています。

――どのような音楽家でありたい(または、~になりたい)と思いますか?

hatao:若い頃は万能で万人受けする演奏家になりたかったのですが、自分の能力や適正をよく理解した今は、自分の音楽を好きだと言ってくれる人に、誠実に音楽を届けられたら幸せです。

音楽講師として

――初めて教室に来る生徒にどんな楽器(フルート・ホイッスル)を薦めますか?

hatao:最初は安い楽器で良いと思っていますので、最低限きちんと音が鳴る笛であれば良いです。

ホイッスルなら Feadog Pro、フルートなら Galeon や Somers などのポリマーの質のよいもの。

――初心者が練習において気をつけるべきことはなんですか?

hatao:正しい楽器の持ち方、フォーム、運指を身に着けてください。

フルートならそれに加えてアンブシュアと呼吸です。

独学だと癖がつく恐れがあるので、数回でも先生について習うと、その後の効率や上達スピードが劇的に違うはずです。

自分は先生につかなかったので、回り道をしたと思っています。

――レッスンのカリキュラムやテキストがあれば教えてください

hatao:手前味噌ですが、まったくの初心者には自著の「ティン・ホイッスルを吹こう!」、そして「はじめよう!アイリッシュ・セッション」を使っています。

以前の「地球の音色」に変わる、ステップ・バイ・ステップの教則本を製作中です。

――レッスンで大切にしている価値観はなんですか?

hatao:とにかく笛を吹くことが楽しいと思ってもらえること。

それさえ伝われば、上達はあとから付いてきます。

僕の「笛熱」を感染させることが大事です。

そのために、本気のお手本演奏もたくさんします。

――伝統音楽の理想の教師像とは、どんな人物ですか?

hatao:自分自身を伝統音楽家とは思っていないのでわかりませんが、音楽教師という点では、権威主義や教条主義的にならず、生徒と一緒に音楽を楽しみながら、導いてくれる人がよい教師だと思います。

――生徒に期待することはなんですか?

hatao:レッスン以外でも日常的に音楽を聴き、笛を演奏することです。

それなくして上達はありませんから。

――伝統音楽は完全に独学でも習得ができると思いますか?

hatao:テキストやビデオ教材でも習得できると思いますが、人と合わせる経験は必要なので、セッションに通ったり、バンドを組んだりすることは必須です。

――今後、日本のケルト音楽・アイルランド音楽シーンに望むことがあれば教えてください

hatao:有望な若手がどんどん出てきてほしいです。

そのためには支援は惜しまないし、自分の知っている情報もどんどん出していきます。

上の世代は色々と言うかもしれませんが、型にはまらず、のびのびとやってほしいですね。


5分間の魔法 / hatao & nami

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