【レビュー】Koji Koji Moheji “Take off - Beyond the respect-“

ライター:hatao

ガイタ。日本ではあまり知られていない楽器だが、ガイタはガリシア語でバグパイプを意味し、スペイン北西部のガリシア地方で盛んに演奏されている。

日本映画「ゲド戦記」「星になった少年」に代表されるサウンド・トラックへの参加やザ・チーフタンズとの共演をしたカルロス・ヌニェスCarlos Nuñezが世界的なガイタ奏者として知られている。

本作は愛知県在住で日本・世界を股にかけて活躍する若きガイタ奏者Koji Koji Mohejiこと小嶋佑樹氏が2018年に発表した、3枚目のソロ・アルバムである。

山梨県出身の小嶋氏は、学生時代はドラマーを目指して音楽学校に入学、やがてスペインの電子バグパイプ奏者エヴィアHeviaの音楽にふれてバグパイプの魅力のとりこになり、バグパイプ奏者に転向した。

まずはスコットランドの大型バグパイプ、ハイランド・パイプスを習得するためにパイプバンドに参加し練習を重ね、ついにガイタを手に入れてガイタ奏者になった。

現在はガイタのほか、ティン・ホイッスルやアコーディオンも演奏している。

日頃から楽器の習得に並々ならぬ情熱を燃やす小嶋氏だが、ストリート・パフォーマーという違った顔も持っている。

東京在住時代はディアボロとバグパイプを組み合わせたユニークな芸風で東京ディズニーシーや上野公園でパフォーマンスの腕を磨いた。

現在はストリート・オルガンの演奏にも力を注いでいる。

彼にとっては楽器はパフォーマンスの手段であったが、近年はパフォーマーからミュージシャンへと重心を移しつつあり、順調にCD作品を発表しライブを重ねてきた。

Take off - Beyond the respect-

本作はこれまでのCDに収録されていたガリシアの伝統音楽は一切選曲せず、全曲オリジナル作品を投入、作編曲やバックトラックの作成、録音、編集、ジャケット・デザインまで全て自分でこなした労作である。

全10曲の中で、小嶋氏はガイタ、ホイッスル、バウロン、パンデレタ(タンバリンのようなガリシアの伝統打楽器)を演奏。

ゲストには一作目から参加しているtricolorのギター奏者 中村大史氏とフィドルの奥貫文子さん、ハープの上原奈未さん、パンデレタの小嶋未有さんが参加している。

各曲を紹介していこう。

1曲目 「Accelation Reel」は「加速するリール」の曲名どおり、重たいリズムで低音中心のパイプとフィドルの短調のリフからはじまり、一気に弾けるように加速し長調に転調するロック的な爽快な曲。

ライブのオープニングにふさわしい曲である。

低音でユニゾンするフィドル、タイミングに正確でカリカリのバグパイプの装飾テクニックも聴きどころ。

2曲目「Bouncing Floor」は「はねる床」、大勢の人が楽しげにダンスをする印象だろうか。

ギターとヴァイオリンのピッチカートのイントロが印象的。

アルトF管ホイッスルが主役を取っており、やわらかなアルト・ホイッスルの音色の「おいしさ」が味わえるメロディ。

ホイッスル演奏する人はオーバーラップして吹くと楽しめるだろう。

途中からドラム、ベースが入り力強いリズムを刻む。

3曲目 アルバム・タイトル曲「Take Off」

飛行機の「離陸」という意味だが、これまでガリシア曲で培った演奏テクニックや音楽性をいしずえに、オリジナル音楽で世界に羽ばたきたいという意気込みが感じられる。

ピアノのロック的なリフから始まり、力をためて爆発する展開はAccelation Reelとも共通する。

ライブでは大盛り上がりするナンバー。

4曲目「Amadare」、これは日本語の「雨だれ」。

低音のB♭管ホイッスルは珍しい。

スペインの職人が作った木製のホイッスルとのことだ。

ハープのイントロが雨だれを連想させる。

ワルツのリズムで奏でられるメロディはやさしく、2ndホイッスルはFlookの笛のかけあいを思わせる。

B♭管ホイッスルとB♭管ガイタでのユニゾンとなり、メドレー2曲目はいわゆる「スリップ・ジグ」のリズムで、水滴がはねるような視覚的なメロディ。

5曲目「Adventure of Wind」は「風の冒険」。

高音Eb管ホイッスルで演奏。

いわゆるAABBのような伝統音楽の構成ではなく、ストーリー性を感じさせる曲の展開だ。

4拍子から3拍子になったり、自由な発想で作曲をしている。

ティン・ホイッスルの低音から高音までめいっぱいに使い、少年の冒険物語のような瑞々しい音楽だ。

ギターとハープの伴奏楽器の組み合わせも良い。

6曲目「Magic Spell」は「魔法の呪文」という意味で、エレクトロニカ風のバックトラックとアコースティック楽器の組み合わせが美しい。

バックトラックのドラム、ベースはシンセサイザーで、ここでは電子音楽と生楽器との融合がテーマだと感じる。10拍子。

7曲目「Hide and Seek」は「かくれんぼ」は、長調の明るくポップな曲調が多い本作品の中では異色のダークな世界観の曲。

アルトFホイッスルで演奏しており、タンギングを多様したスタイリッシュな演奏。

増1度の音程を使い、予想を裏切ってくれる攻めるメロディだ。

8曲目「Stomp the Floor」は曲名どおり力強く床を踏みしめるリズムが一貫して流れる、ジグのリズムのガイタの曲。

メドレーの2曲目(1:30あたり)からはパンデレタの心地よいリズムを楽しめる。

曲調や展開は3曲目Take Offと似ており、アルバム中間部で出てくるセルフ・オマージュ作品と思われる。

9曲目「Kaleidoscope」は「万華鏡」の意味。ハープとガイタが主役である。

通常はガイタの伴奏にハープを用いることはないが、ハープによって遊園地のメリーゴーラウンドのようにメルヘンな雰囲気を作り出すことに成功している。

メドレーの後半はバックトラックが入り雰囲気が一転、力強いロックの雰囲気に変わる。

アルバムを締めくくる10曲目「Cinderella Time」では、ワルツ(またはマザーカ)のリズムにギターとピアノの爽快感あるバグパイプの太い音色を楽しむことができる。

途中からスキャットが入り、美しくもやや感傷的なメロディで、明日への希望を感じさせる曲。

アルバムを1曲目から聴くと、ストーリーをもって全体が構成されていることがわかる。

エンディングにふさわしい曲だ。

アルバム全体の印象として、本作品ではガイタという伝統楽器をガリシア音楽というジャンルに留めずに魅力的に演奏する方法を提示することに成功していると感じる。

もう一つのテーマはアコースティック楽器と電子音楽の融合で、それらをバランス良く配して現代人の感覚に訴える作品になっている。

ガイタは音色・音量・音域と制限が大きいが、それを感じさせないのは曲作りと演奏テクニックのおかげ。

そしてガイタでは表現しきれない部分は、ホイッスルが時々補うのも、また良い。

録音・編集の腕が向上したのか、これまでの作品に比べてバランスが良くなったようだ。

バグパイプの音色は線が太いが、それに負けないシンセサイザーのバックトラックの存在感、そして共演のアコースティック楽器の印象が薄まることなく適度にミックスされている。

本作品は、スペインで毎年開催されているオルテゲイラのケルト音楽フェスティバルのコンペティション参加に向けて作成されたもので、2017年は惜しくも首位を逃したが、2019年に再挑戦するために作られたもの。

願い叶い、その年のコンペティションでは、本作のゲスト中村氏、奥貫さんとともに見事に首位を獲得した。

この作品で世界レベルに挑戦し、羽ばたきたい、そんな熱い思いが感じられる。

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Take Off beyond the respect / Yuki Kojima

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