hatao & nami 4th CD「5分間の魔法」によせて

ライター:hatao

関西を拠点に活動するインストゥルメンタル・デュオ hatao & namiの4枚目のCD「5分間の魔法」が今月、全国流通で発売になりました。

私hataoはアイリッシュ・フルートなどたくさんの笛類を演奏し、namiは主にレバー・ハープとピアノを演奏しています。

長くお互いのリーダーバンドでゲストとして関わってきたためデュオとしての始まりは曖昧ですが、活動は今年で約10年になります。

二人ともアイリッシュだけに限らず他の地域のケルト音楽や北欧音楽が好きだったので、ジャンルを限定せずに好きな曲を選び、型にはまらない演奏をしようということで始まりました。

当初はスコットランドやウェールズなどの、その時に聴いている音楽で良い曲を見つけては何でも持ち寄って演奏していました。

結成当時このデュオで私がやりたかったこと、それは伝統音楽を素材に心象風景を描くことです。

伝統音楽のダンス曲というのは、本来は踊るための伴奏曲。

しかし単に踊りの伴奏なら、こんなにもたくさんの曲は必要ないはず、曲には、それぞれに生まれた背景やその曲に込められた思いがあるのではないか。

「伝統音楽のスタイルで、表現をすることとは何か」という問いに対する自分なりの回答が、hatao & namiの音楽です。

そのため素材は伝統曲であっても、原曲のまま演奏することはまれで、言葉に書かずとも訴えかけてくるストーリーや風景を大切に、自由な発想で編曲をしています。

もっとも、活動の初期は伝統曲が多かったのですが、次第にお互いのオリジナル曲が増えてゆき、現在ではコンサートで演奏する曲は大半がオリジナル曲です。

時々、私達を「アイリッシュ・ユニット」と紹介されることがありますが、実際にはアイリッシュはほとんど演奏していません。

5分間の魔法 / hatao & nami

さて今回は私達の4枚目のアルバムとなります。

これまでのCDを振り返ると1枚目「Silver Line」はフルートとピアノ主体にドラム、パーカッションを加えたバンド・スタイルでケルト音楽寄りのサウンド、2枚目「雨つぶと風のうた」ではnamiさんはピアノを弾かずハープ多めで静かで内省的な曲調が多く、3枚目「森の時間」は北欧の笛図鑑ともいうべき、伝統曲のみの北欧音楽集でした。

4枚目の本作は、原点に立ち返りフルートをメインとしながら、ベース、パーカッション、ストリングスをゲストに、ほぼ全てをこの4年間に作曲したオリジナル曲で構成しています。

私が好きなサウンドは強いメロディ先導型でありながら、一般的なケルト音楽にはないハーモニーやメロデイの掛け合いがある音楽。

それをnamiさんがリハーモナイズや転調などの編曲技法を駆使して物語性のある展開とカラフルなサウンドに編曲するのが、私たちの創作スタイルです。

使用している楽器はアコースティックでシンプルですが、演奏方法にも特殊奏法をさりげなく取り入れたり工夫を凝らしています。

最後に、楽曲について簡単に紹介します。

各曲が試聴できるダイジェスト・ムービーとともにご覧ください。

1曲目「曇り空の向こう」はアイルランドのフルート奏者、故Josie McDermot作のメロディをnamiさんがアレンジした楽曲。ピアノ、ベース、ドラムス、ストリングスの軽快で重厚なサウンドです。

D管フルート1本での演奏ですが、途中で繰り返し転調が行われています。

車窓の景色が流れてゆくような疾走感と、ビートが途切れた瞬間に経ち現れる「間」が魅力的な曲です。

2曲目「黄昏時のリール」はnamiさんがハープとピアノを多重録音でデュエットするというコンセプトの楽曲。

笛の登場は背景の和音だけです。

ライブではhataoがしかめっ面で必死にピアノを弾くのが見どころです。

3曲目「The Missing Notes」はnamiさんのオリジナル曲。

再びバンド・サウンドの疾走感のある曲で、自由な変拍子で作曲されています。

私はティン・ホイッスル、ロー・ホイッスル、フルートと3本の笛を持ち替えながら演奏しています。

4曲目「9つのうた」は私の作品。

スウェーデンのバグパイプ「セックピーパ」で演奏できる狭い音域をすべて使って、作曲に挑戦しました。

実はこの曲の主役はハープ。

バグパイプによるロング・トーン主体の牧歌的・空間的な旋律に、ハープの技巧的な変奏が聞き所となっています。

5曲目「6年間」は私たちの6年の軌跡を振り返りながら作曲したお祝いの曲。

幸せで懐かしい雰囲気のワルツ、そして6年間だから6拍子の曲ということで、ブルターニュの6拍子の踊り「リデ」をイメージして作りました。

B♭管フルートという長いフルートを演奏しています。

6曲目「影踏み」はnamiさんが日本の春の、止まっているように見える自然が目覚め動き始める様子を思い作曲しました。

高知の牧野植物園で毎年、桜の時期にコンサートをするのですが、そのコンサートのために作った曲です。

私はここでもB♭管フルートを吹いており、アジア的な雰囲気をイメージして演奏しています(CD収録後は特に韓国の笛の影響が顕著になりました)。

ここでもメインはハープで、フルートはハープに色を添える役割として、毎回繰り返すたびに旋律を変えて吹いています。

7曲目「夜のとびら」はnamiさんがフィンランドの伝統弦楽器「カンテレ」の奏法にインスピレーションを受けて作った曲。

私はアイルランドのダンス「リール」的なメロディを吹きつつも、アイルランド音楽では使われない演奏法を投入しています。

8曲目「幸せの種」は、東日本大震災で傷ついた日本を励ますために10,000人にティン・ホイッスルの教本を無料でプレゼントした際に、「幸せの種を撒きたい」との思いで教本に収録したhataoの16小節のオリジナル曲。

バンド・アレンジでスピード感のあふれる6/8リズムの中で、スリリングなフルートとフィドルとの掛け合いが展開します。

9曲目「三日月の聖夜」はhatao作のクリスマス曲。

リコーダーとオルガンで、北欧のマーチのような力強い曲に仕上げました。

小学校で吹くプラスチックのリコーダーで録音しましたが、音域をめいっぱい使った伸びやかな高音が聴きどころです。

アルバム・タイトル曲でアルバム最後の「5分間の魔法」は、視覚的な作品。

儚い雰囲気のモチーフから激しく展開し、最初のモチーフに戻った時には視える景色が違う…というストーリーになっています。

B♭管フルートとD管フルートを演奏しています。

伝統音楽に学び、経験と生き方から生まれる自然な表現を大切にした2人ならではの新しい音楽を、お楽しみいただければと思います。

関連動画

▼映像作家/松下高士さん撮影の「5分間の魔法」ミュージック・ビデオ

神戸でロケをし、ドローンを飛ばして空撮した力作です。

▼本作収録曲ではありませんが、和太鼓奏者 村下正幸さん撮影の「Time Flow」のミュージック・ビデオです

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CDは以下で注文ができるほか、お近くのCDショップでも取り寄せることができます。

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