【メルマガ:クラン・コラ】Issue No.251

アイリッシュ・ミュージック、ケルティック・ミュージックを中心としたヨーロッパのルーツ音楽についての情報、記事、読物、レビューをお届けする月2回発行のメールマガジン「クラン・コラ」。

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クラン・コラ Cran Coille:アイルランド音楽の森 Issue No.251

アイリッシュ・ミュージック・メールマガジン 読み物編
Editor : 竹澤友理
July 2017

こんばんは!梅雨も明けてきているようで、京都もいよいよ夏も盛り、といった感じです。7月のEditor’s Choiceは、東京で活動されているフィドラー、矢吹彩さんに依頼させていただきました。主催されている高円寺のセッションについて書いてくださいました。また、先日はこの界隈にとって一大イベントである、オルティゲイラが開催されましたね!!

編集のわたくしもよく動画では見ているのですが、なかなか直接関わる方にお話を聞く機会ってないよなぁ、などと思っていたところ、なんとオルティゲイラに出場し準優勝されたKoji Koji Mohejiさん、そしてそのガリシア語指導に携わったTominhoさんのコラボという形でインタビュー記事を連載させていただくことになりました〜〜!!!わぁ〜〜い!!
レギュラーライターさんの記事と併せておたのしみくださいませ!

飾る必要はないかも?:field洲崎一

先日、当Irish PUB field で、興味深いライブがありました。何が興味深いかというと、メインがブルースを基調としたオリジナルソングのデュオ、オープニングアクトとしてアイルランド音楽のデュオという編成のライブだったことです。

いつもよくやっているアイルランド音楽のライブでは客層もアイルランド音楽に親しんでいる人達が多いので良きに付け悪しきに付けどこか予定調和的な空気がほんわかと流れている店内なのですが、この時は違いました。オーディエンスのほとんどがメインのブルースデュオのお客さんなのでぜんぜん空気が違ったわけです。

オープニングアクトのアイルランド音楽デュオは、メロディー楽器2台という編成で伴奏も入らないどちらかというと硬派なサウンドで押しまくります。店内にぴりっと緊張感が漂うのがはっきり判りました。そういう雰囲気が大きかったのかもしれません。私にとっては既知のミュージシャン2人だったのですが、この2人はこんなに上手だったか?と驚きを隠せないような演奏が続きました。そして、オープニングアクトの30分が終わった時には会場からは当然のように大きな拍手が起こりました。

何と言いましょうか、誤解を恐れずに言うと、普段のアイリッシュライブでは多かれ少なかれ出演者とオーディエンスは何となく普段の仲間感というかオトモダチ感というかそういう空気に包まれていて、確かに1曲毎に会場から拍手が起こりますが、それは何となくお約束事というかお愛想というか礼儀というか、そんな感じが付きまとうものです。しかし、こういう、本気の拍手というのはその場の空気がぜんぜん違うものなのですね。判ってはいましたが、この時あらためてそれを実感したのでした。

彼らが舞台から降りて客席を横切り奥の控え室に戻って行きます。オーディエンスの中から、彼らに話しかけている声が聞こえてきます。

「あれは、2つの楽器がまったく同じメロディーをユニゾンで弾いているのですか?」

「独特なトランス感があり不思議な気分になりました。驚きました!」

ああ、そういう事やそういう事や、と私自身の中で、このアイルランド音楽の特徴と魅力を再確認して、パッと目が覚めたような気分になったのです。普段、アイルランド音楽に親しんでいない音楽ファンのこの的を射た味わい方の新鮮さというか、そうそう、そうなんですよ!とひざを叩きたくなる気分と言いますか、、、

実は、ちょっと不安だった彼らの硬派な演奏がそのままの形で受け入れられているという事実への感激と言いますか、ついつい、こういう状況では、少しでも聴きやすく、ギターなどの伴奏楽器があった方が親切かな、とか、歌とかあった方が聴きやすいかな、などと考えてしまうのですが、逆にそんな親切心は、かえって事を判りにくくしてしまうのではないか?という問題意識に繋がって行きます。

つまり、そうすると確かに聴きやすくなるのでしょうが、例えば、前奏があってテーマメロディがあって和音による伴奏があってハーモニーになる副旋律をつけて判りやすいエンディングがあって5分以内で1曲終了!というような事をした場合に。結局はアイルランド音楽からメロディだけ借りて来てアコースティックのイージーリスニング曲をやりました、というだけのお話になってしまう恐れがあるのではないか。

そういう場合に、時折、オーディエンスから、懐かしい感じのする良いメロディですね!と賞賛を受けることがあるので、それはそれで良いことなのですが、ん?ちょっと違うぞ、という違和感も同時にやって来ます。

特徴のはっきりしたものは、無骨にそのままさらけ出した方がかえってそのエッセンスが伝わるのではないかと思った、というお話でした。

最後に、この時のブルースファンのオーディエンスのオープンさにも目を向けたいと思うのですよ。対して、アイルランド音楽ファンの皆さん! オープニングアクトとは言え、アイリッシュ音楽仲間が演奏するのですからいつものアイリッシュ好きオーディエンスも少しは興味を示してくれれば良いのにと思うのですが、この日の会場には彼らは誰一人姿を見せませんでした。これを機会に、普段はあまり聴かないけどブルースのオリジナルソングとやらにちょっと耳を傾けてみようかな、ぐらいのオープンさと言うか余裕というか、そういう姿勢があっても良いんじゃないかな思いました。

まあでも、アイリッシュライブはその後のセッションが楽しみで足を運ぶというのもありますかね−。す

#Colleen Raney——アメリカで伝統をうたう試み・その2:おおしま ゆたか

公式サイトによると、この秋、ハンツ・アラキとともに来日する予定。彼女のうたを生で聴けるのは楽しみだ。ではまず、デビュー作から。

2008, LINNET

このアルバムは先だって、1曲入れ換え、ジャケットを新しくしてリリースされた。

Colleen Raney – vocals, bodhran
Hanz Araki – flutes, whistles, vocals
Mark Raney – guitar, cittern
Cary Novotny – guitar
Matt Jerrell – drums, percussion
Ezra Holbrook – bass
Eddie Parente – violin, viola
Nancy Conescu – guitar
Kellam Throgmorton – fiddle
Cali McKasson – piano
Philip Boulding – harp

ハンツ・アラキのプロデュース、オレゴン州ポートランドでの録音。ミュージシャンはいずれもアラキ周辺の人たちだろう。Cary Novotny は共に来日している。Nancy Conescu は O’Jizo の VIA PORTLAND にゲスト参加していた。

  1. Love & Freedom – 02:53 Ireland
  2. Jeannie o’ Bethelnie – 04:19 Scotland
  3. Jackson & Jane – 03:25 Ireland
  4. Fair Margaret & Sweet William – 03:49 England
  5. Bonnie Jean Cameron – 03:58 Scotland
  6. The Barring of the Door – 03:11 Ireland
  7. Fhear a’ Bhata – 03:56 Ireland
  8. Sailor Boy – 04:52 (England)
  9. Geordie – 02:40 Scotland
  10. I Wish The Wars Were All Over – 02:48 Tim Eriksen
  11. Lullabye – 03:59

ほとんどがトラディショナル。試みにうたの出自を挙げてみた。スコットランドが3曲あり、アルバムのハイライトを作っている。10. はアメリカ人でイングランドの伝統に棹さすティム・エリクセンの作。歌詞はエリクセンのサイトにある。

http://www.timeriksen.net

08 と 11 は不明。08 はたぶんイングランド。01 は北米のアイリッシュ・シンガーの先駆けの一人 Cathie Ryan が1998年のセカンド THE MUSIC OF WHAT HAPPENS でうたっている。03 はPaul Brady の WELCOME HERE KIND STRANGER がソースだろう。06 はチャイルド275番。04, 05, 07, 09 はいずれも定番で、録音は数多い。

アラキがプロデュースだけでなく、全面的に参加もしていて、リード楽器はフルート。というのは、うたの録音としては珍しい。

アイルランドのフルートの名手にはうたい手として秀れた人も少なくない。ただ、録音ではこういう人たちはうたうか、吹くかのどちらかで、伴奏のメインがフルートというのは稀な類だ。

アラキもすぐれたシンガーであり、03 と 06 では交互にヴォーカルをとるし、コーラスも合わせる。しかし基本は主人公たるレイニィを立てる。一方でバックのサウンドの中心にフルートがいる。間奏やコーダを担い、あるいはヴォーカルにハーモニーをつける。このサウンドが全体の印象をまろやかにしている。レイニィの声はアイルランドの偉大なうたい手たちと共通するアルトないしそれよりも低い声域だが、スコットランドのうたい手たちに通じる底硬さがある。感情剥き出しにシングアウトすることがないスタイルと相俟って、高潔な表情を生んでいる。フルートが傍らにあると、高潔な表情が温もりを帯びる。

ドラムスとベースが入っているが、このリズム隊は神経細やかで、でしゃばらず、軽やかにうたを浮上させ、あるいは支える。アラキのプロデュースもあるのだろうが、うたい手の本質を?んでいる。ことリズム・セクションに関しては、英国よりもアメリカに秀れた人たちが多いのは面白い。層の厚みが違うのである。こういうローカルな人たちでも、相当なレベルにある。

とはいえベスト・トラックはフルートもリズム隊もいない05。普通よりもずっとスローなテンポで、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、コントラバスによるミニマルな背景に、ほとんどフリー・リズムのヴォーカルが浮きあがる。コーラスのメロディの哀しさが引き立つ。

同じくスコットランド起源の 09 は切迫感に満ちた曲調が特徴だが、レイニィは焦らず、急がず、みごとにうたいきる。すぐれたうたい手の例にもれず、リズム感がいい。

一方、イングランド起源の 04 と 08 も名演といっていい。04 はほとんどアメリカン・フォークのバックに、ストイックなイングランド流ヴォーカルが乗る。08 はシターンの伴奏が冴えわたり、フルートの間奏もモノに憑かれたようでもある。サードの CUAN にも通じる世界だ。

アルバム・タイトルのもとになっている 10 は伝統の衣を着ることで、同時代かつ普遍的なうたの性格が明瞭に響く。エリクセンはもろにパンクの影響のもとに出てきた人だが、そこからアイルランドでもスコットランドでもなく、イングランドの伝統歌のうたい手へ成長していった。パンクがフォーク・ミュージックと根を同じくするからこそだろうが、このうたは歌つくりとしても秀れていることを示す。

レイニィの歌唱はまだ初々しいところがある。感情に流されず、媒体に徹しようと意識している。その意識が、かすかではあるが、ところどころ現れてしまう。とはいえアイルランドやブルテンのうたい手たちにはごくあたりまえにあるこの意識はアメリカのうたい手としては新鮮だ。そして媒体に徹しきれないところが、10 のようなうたにおいてリアリティを生んでいる。

3年後、たて続けに出す2枚のアルバムは、見方によっては対照的な相を見せる。(この項続く)

★Editor’s Choice★高円寺 Grain 初心者セッション:矢吹彩

hataoさんにお誘いいただき、こちらに寄稿させていただくことになりました、矢吹彩と申します。皆様よろしくお願いします。

私は中学生の頃にバイオリンを習い始め、これまでクラシックをメインに学んできました。アイルランド音楽に興味を持ったのは、たまたまYouTubeでtricolorさんの演奏を聴いたのがきっかけです。とても楽しそうに演奏されている姿と、優しいサウンドに強く惹かれ、「私もこんな風に演奏してみたい!」と思いました。その後tricolorのメンバーである中藤有花さんに連絡をとり、フィドルの手ほどきを受けました。そして、程なくしてコンサーティーナも始めました。

現在はハープの佐久間景子さんとのデュオ「たんぽぽ」や、ハイランドダンサーの川崎千佳さん率いる「Chika withケルトな音楽隊」をメインに演奏活動もしています。また、バイオリンの師匠の柏木真樹先生からレイトスターター(大人になってからバイオリンを始めた人)への指導法を大学生の頃から専門に学んできたので、バイオリンはもちろん、大人からフィドルを始めて困っている人には奏法の基礎のみ教えたりもしています。

自己紹介はこれぐらいにして、私が東京で仲間たちと主催している「初心者セッション」について書いていこうと思います。初心者セッションは主に高円寺のライブカフェ「Grain」をお借りして不定期に開催しています。初心者セッションが始まったきっかけですが、Grainのオーナーの加藤真さんに出会ったのが始まりです。とあるライブを聴きに行った時に、加藤さんと初めてお会いしました。その時に加藤さんは「是非うちのスペースを使って欲しい」とおっしゃってくださり、一緒にいた沖田夏樹さん、山城屋真輝さんと後日Grainに伺いました。そこでいろいろなお話をするうちに、「セッションって、敷居が高くてちょっと参加しづらいよね」という話になり、「それなら初心者の人でも気軽に参加できるセッション練習会を企画しよう!」ということになりました。

実際はどこのセッションに行ってもマナーさえ守れば優しく受け入れてもらえるのですが、当時の私は少し気後れしていて、同じ気持ちの人は他にもたくさんいるだろうと思ったのです。試しに開催してみたところ、思っていた以上に反応があり、回を重ねるごとに参加者はどんどん増えていきました。今では座る場所を確保するのも大変なほどです。

初心者セッションでは毎回運営が課題曲を設定し、当日までに各自さらってきてもらいます。できる人は全曲、それが難しい人は頑張って1曲だけでも練習してきてもらいます。そしてゆっくりなテンポから練習して、少しずつ速くしてみたり、お互いに疑問点やアイディアを出し合ったりしています。練習タイムの後はセッションをしますが、曲出しの際には過去の課題曲の中から選ぶことが多いので、過去の課題曲のリストを見ながら少しずつ覚えていけば、だんだんとセッションを楽しめるようになっていきます。そしてセッションの後はオープンマイクを開催しています。レベルやジャンルは不問で、発表の場として自由に使っていただいています。その後は希望者のみ残って食事をしながらお話したり、楽器を取り出して再びセッションタイムになったりします。

初心者セッションの問題点として、同じレベルの仲間同士でやっていてもなかなか上達しない、ということがあると思います。そこで、時々ゲスト講師をお呼びして指導していただいています。過去には中藤有花さん、赤嶺文彦さん&Kevin Ryanさん、hataoさんにお越しいただきました。いずれも大盛況で、たくさんのことを学ぶことができました。また最近はベテランの演奏者さんも参加してくださるようになりました。これを読んでくださっている初心者ではない皆さまも、参加していただけたら嬉しいです。

また、初心者セッションのもう1つの大きな役割として、横の繋がりを広げるということがあると思います。初参加の方の中には、アイルランド音楽に興味を持ったけれど周りに仲間がいない、そのため情報がなかなか入ってこない、という方がいらっしゃいます。初心者セッションが、アイルランド音楽のコミュニティへの入口になればとても嬉しいです。

現在は私と、沖田夏樹、袴谷一成、山城屋真輝の4人体制で運営しています。関東の方はもちろん、遠方にお住まいの方も関東にいらっしゃる機会があれば是非お気軽に遊びに来てください。告知はFacebookと私のブログで行っているので、興味がある方はチェックしてみてください。

『車椅子のヴァイオリン弾き 彩のブログ』
http://ayamochimochi.blog.fc2.com/

たくさんの方に遊びにきていただけたら嬉しいです。皆様とお会いできるのを、楽しみにお待ちしております。

矢吹 彩

★Guest Writer★連載: Camino a Ortigueira / オルティゲイラへの道 (前編):Koji Koji Moheji×Tominho

「Camino a Ortigueira / オルティゲイラへの道」と題して、今月と来月の2回にわたり、スペインのガリシア地方のバグパイプを演奏するガイタ奏者Koji Koji Moheji氏のインタビューをお送りします。今月号では、4月に発表されたセカンドアルバムや2月のスペイン滞在について、来月号では新人発掘企画Runasで見事準優勝に輝いたオルティゲイラ・ケルト音楽祭について伺っています。インタビューはKoji Koji Moheji氏のガリシア語指導を担当するTominhoが行いました。

──4月にセカンドアルバム “Cross The Line” を発表されましたが、まずどういう思いを込めてこのタイトルのアルバムを作ったのか、教えてください。

誰でも「この一線を越えることができれば」とか「あの先に行くことができれば」と思いながらも、なかなか一歩を踏み出せないことってありますよね。そんな時に背中を押せるような作品になればと思いました。

前回はカバー中心で、自作曲は2曲だけだったので、伝統音楽を出発点としながらも、自分らしいオリジナルな曲を作りたかったんです。今年のオルティゲイラ・フェスに挑戦することも制作時に考えていたので、現地の人にも受け入れてもらえるような曲を作ろうと。そこが自分にとっての1つのラインで、それを越えたいという思いもありました。

今まで様々な音楽を聴いてきたんですが、ガリシアやアイルランドの伝統音楽はもちろんのこと、最近は特にスコティッシュやケープブレトン島のドライブ感溢れる曲などにも影響を受けてきました。今回はそんな音楽も取り込みたい、そしてまた出来上がった作品を通して、そのルーツにある音楽を知ってもらえれば嬉しいなと。

──前回はアコースティックなアレンジでしたが、今回はドラムが入ったバンドサウンドですね。

はい、これはアルバムを作り始める時点で既に決めていたんです。自分が元ドラマーということもあるんですが。それに近々、オリジナル曲ではなく、ガリシアの伝統曲だけのCDを作る計画もあって、そっちはアコースティックなものになるでしょうから、それとは対照的なアルバムを作りたかったというのもあります。ピアノも入れて、ベログエト (注1) のような、新しいバンドサウンドを作ろうと。

──確かに今回はベログエトを彷彿とさせる曲がたくさんありますね

そうですね、Entre O Milloなんかも、アンショ・ピントスがカルロスとやっていた頃に作った伝統曲ですね。

──Kick UpやGalician WindにはベログエトのCancro CruやFuscoのフレーズがところどころに出てきますが、フレーズを切り取って、そこから新しい曲に発展させて行くというアプローチだったんですか?

うーん、そういうアプローチを予め決めていたわけではないです。作る中で入れたくなったというか、聴き過ぎて、影響を受け過ぎなんでしょうね。でも、そういう作り方があっても面白いですね。

──今回は、ハ長調が中心だった前作とは対照的に、変ロ長調の曲が中心ですね。

そうなんです。今のガリシアではC管が最も頻繁に用いられるんですが、今回はスコットランドのグレート・ハイランド・パイプス (GHP) を意識しています。

──というと?

自分は元ハイランド・パイパーなんですが、ガイタと両方経験した自分としては、ガイタでGHPの曲を演奏することで、その違いが浮き彫りになるんじゃないかと。

──具体的な違いとしては?

GHPはとにかく力強い音が特徴なんですが、ガイタにはその強烈さがないというか、音色が少し柔らかいというか、丸いというか。かといって、イリアン・パイプスのような澄んだ音でもなく、その中間なんですね。それにJidandaやHimno Galegoのように、ガイタは半音階が演奏できるので、演奏やアレンジの幅も広がります。

ハイランド・パイパーはGHPだけを演奏するのが普通ですけど、自分としては、ハイランド・パイパーであってもそれにこだわる必要はないと思うんです。ガイタで演奏するスコティッシュがあってもいい。そういう意味で、GHP系の曲をガイタで演奏することで、ガイタの魅力にも気づいてもらえたらなあと。

──Marcha do Entrelazado de Allarizは、カルロス・ヌニェスの壮大なアレンジのイメージが強すぎて、編曲が難しそうですが、彼のアレンジとはまた違う世界感になっていますね。

このアレンジは苦労しました。あの世界感をぶち壊そうとしても、無理なところはありますけど、それでも自分なりのアレンジを提示できたと思います。夜、広大なサバンナに、生き物が寝静まった後に、何か自分たちとは違う夜行性の存在が動き回る感じを想像しながら作りました。

──このホイッスルはジョナサン・スウェインの木製ホイッスルですか?

そうです。このホイッスルはカルロス・ヌニェスが使っていることで有名ですが、自分が吹くとまた違う音色になるんですよ。人を選ぶんですね。でもそれが個性的で面白い。スウェインと言えば、スペインのカンタブリア州の山奥に、ダビー・ロペスという、見た目がよく似たホイッスルを作っている職人さんがいて、2月にスペインに行った時に工房を訪ねたんですが、彼のホイッスルの方が言うことを聞いてくれます。でも単なるスウェインのコピーではなくて、音が濃いというか、太くて。やはりスペインだけあって、ガイタと一緒に演奏できる音量の大きい笛を製作しているんですね。

──2月にガリシアへ行かれたということですが、どんな旅になりましたか?

今回はダニエル・ベジョン (注2) という新進気鋭のガイタ奏者に習いに行きました。前から習いに行こうかとは思っていたんですが、ツアー中だったりして。でも今回はちょうどレッスンを受けられる時期だったので、思い切ってお願いしました。

──今回はどんなレッスンに?

特に指使いですね。ペチャードという、クロスフィンガリングを用いて独特の装飾音やリズムを作るガリシアの北・中西部特有の奏法や、その運指をいかに現代の曲の演奏に応用するかということを学びました。クロスフィンガリングの替指を用いて、各音で音量差を一定に保つということもその例です。

ダニエルは伝統音楽だけでなく、モダンな曲やブルースをやってみたり、他の楽器の演奏法をガイタに取り入れたりと、新しいことにどんどん挑戦する人なんです。そこは、最初に師事したスソ (注3) とは違いました。彼はとにかく古典的な演奏を教える人でしたから。 (来月号に続く)

(注1) Berroguetto: ガリシアでは最も有名なフォークバンド。カルロス・ヌニェスがソロデビュー前に組んでいたMatto Congrioのメンバーが中心となって1995年に結成。2014年に惜しまれつつ解散。

(注2) Daniel Bellon: 1985年生まれのガイタ奏者。40以上の伝統音楽コンクールで優勝し、ガリシアで最も受賞数が多い強者。アコーディオン奏者のディエゴ・マセイラスと共に“BellonMaceiras”で活動中。

(注3) Suso Vaamonde: Vaamonde, Lamas e Romeroで活躍するガイタ奏者。演奏活動だけでなく教育活動にも力を入れ、教則本も出版。2017年にはマルティン・コダックス音楽賞を受賞。

※本記事では、JISコードに対応していないガリシア語等の文字については、代替表記を使用しています。正式な表記に関しては、各リンクよりご確認ください。

ざっくり学ぶケルトの国の歴史(3)台風の目はヴァイキング:上岡 淳平

歴史あるアイリッシュ音楽情報満載のメルマガ、クラン・コラでなんでずっと歴史の話をしてるんだと思われる方も多いと思いますが(自分でもそう思う)、音楽ってのは文化であり、文化はそこに住む人々はやその地域で獲れる作物、そして仕事によって形成され、その全てに影響を与えるものが歴史なんです、という流れから、ケルトの国々の歴史を振り返ってみよう、というテーマでお送りしています。

さて、前回で少し平和になった英国のあるブリテン島。キリスト教の教えを守りつつ、修道院を中心にまったり暮らしていたところに、ある“人たち”がやってきます。そう「ヴァイキング」です。(具体的にはノルウェーから来たヴァイキング御一行と、デンマークから来たデーン人御一行)

もう何世紀か早く来てくれてれば、闘いに慣れていたんだけど、すっかり平和な生活を謳歌していたもんだから攻められたところで、どうすりゃいいのかわからない。

しかも、今度のやっこさんはケルト人より背が高く、美し過ぎる金髪(関係あるのか?)で、アングロ・サクソン人よりもさらに手荒かった。

ヴァイキング御一行様はスコットランドから南へ進み、デーン人御一行様は東から入り西へと進み、ローマ人は手の付けなかったマン島や、お隣のアイルランドにも抜け目なく攻め込んだ。

すっかり侵略されてしまったブリテン島の人たちだけど、瀬戸際で食い止めてくれたのは、7つの国の大ボス、ウェセックスの王様だった。「これまで侵略した町はお譲りいたしやしょう。その代わり、それ以上は進まないでおくんなせぇ!」といって北欧の暴れん坊たちをなんとか説得。

それでも暴れ足りない人たちはフランスまで行って、ノルマンディーって町を作ったりした。

さて、そんなヴァイキングがアイルランドで狙いをつけたのは修道院だった。裕福なのに、警備が手薄だったのがその要因だね。

前にも書いたように、修道院を中心に栄えていたアイルランドの平和な時代は、海賊兄さんによって強制終了されてしまった。はじめのうちは、海岸沿いの村々から金銀財宝、家畜、そして女性をさらっていたそうだけれど、そのうち川を伝って内陸にまで攻め入るようになったそうな。

そんなことが200年(!)以上も続いたもんだから、アイリッシュの人たちも修道院スペースに入口無し・窓ありの円塔を建て、ヴァイキングが襲ってきたら、はしごを使って中に入り、はしごを上げてしまい、彼らが去るのを息をひそめて待っていたりしたと言われている。ちなみに見つかったら、火をつけられたんだとか…そういった建物もまた、今では観光名所になっている。(グレンダーロッホなど)

かなり長期的に略奪を続けていたもんだから、そのうち「急襲をかけて奪って去る!」というヴァイキングの基本ポリシーもどこへやら、いちいちうすら寒い北欧に帰るのが邪魔くさくなって、アイルランド内に野営地を作りはじめた。次第に野営地が要塞に変わり、その周りに町を築くまでに至った。

そんな中で作られた町のひとつが、なんとダブリンだと言われている。そう、アイルランドの首都はヴァイキングが作った町なんだね。

今でも堂々のたたずまいを見せるダブリン城は、元々ヴァイキングの砦があった場所に建てられたんだそうで、ダブリン市内や周辺の修道院などにヴァイキングの歴史を伝える博物館はたくさんある。

定住を決め込み、最大の長所「優れた航海術」を使うことがなくなった頃から、次第にアイリッシュの反乱が有効になってきた。そして、ヴァイキングの支配を終わらせたと言われているのが、後のアイルランド王ブライアン・ボルーだ。そんな彼の武勇伝を称えた(かどうかは知らない)「ブライアン・ボルーズ・マーチ」という曲は、今でも人気の伝統音楽のひとつ。

前回の侵略で、逃げるように海を渡ったケルトっ子たちが住みついたブルターニュ。フツーに考えたら「フランスに逃げ込んだんだから、フランスの支配下になるの?」と思うでしょう。でも、実はここ、199X年みたいな荒地だったんです。

それでも四面楚歌な状態の英国よりはいくらかマシな環境だったので、そこに頑張って町を作ってたわけですね。

さて、しばらくしてフランスも体制が整ってくると「その土地、うちの土地ですよね、領地を返しなさい」やら、「荒地を一から復興したんだからオイラのもんだ」みたいな喧嘩が始まります。

そんな情勢を見ていた、フランスに一泡吹かせたいヴァイキングが(それまで散々ブルターニュからも略奪してたんだけど)一緒にフランスやっちゃいませんかとブルターニュに進言したことから、フランス vs ブルターニュ feat. ヴァイキング勢の独立をかけた戦いが勃発。結果、ブルターニュが勝利して、独立を保った。

でも、ヴァイキングは政治的な駆け引きとしてブルターニュに力を貸してフランスを退けたわけで、フランスの弱り目に自分たちの国を次々立ち上げ(ノルマンディーなど)、最終的にはブルターニュもいっちょ侵略してみっか的なノリで合併し、ついにブルターニュ王国は終焉した。

紀元1000年頃の、いと哀しきブルターニュのお話をしたところで、続きはまた次回。

編集後記:竹澤 友理

こんばんは!編集のたけざわです。
今回は非常に内容の密度が濃く、なかなか読み応えのある記事がお届けできたのではないでしょうか!

毎月寄稿してくださっているレギュラーライターのみなさま、Editor’s Choiceを快く引き受けてくださるみなさま、また、嬉しいことに読み手からライターに手を挙げて寄稿してくださるTominoさんはじめみなさま、ありがとうございます。これからも読み手と書き手とを行きつ戻りつ、交流そのものが記事に残っていくことで更におもしろい読み物にできたらなぁと思っております。

おおしまさん、Tominoさん、うえおかさんの記事は来月も連載です。また、hataoさんがいまヨーロッパにて音楽旅行をされてます。そちらの欧州紀行も予定しておりますので、おたのしみに!(たけざわゆり)

クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月2回刊)

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クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月2回刊)
発行元:ケルトの笛屋さん
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