【ノルウェー狂詩曲(ハーバート) 】オーケストラアレンジで聴くケルト・北欧の伝統音楽

ライター:吉山雄貴

これまでもたびたび、「アイルランド狂詩曲」やら「スウェーデン狂詩曲」やら、似たような名前の作品をとり上げてまいりました。

そろそろ、見出しの「ノルウェー狂詩曲」ということばをみて、イヤな予感をもよおしたかたも、出てくるはず。

安心してください。みごとに的中します。

「ノルウェー狂詩曲」もまた、ノルウェーの伝承曲を引用して書かれた作品です。

別に、「狂詩曲はその国の人しか書いちゃいけない」、などという決まりはありませんが、作曲者ヨハン・ハルヴォルセン(1864-1935)は、ノルウェー出身。

前回までに何度か名前の出てきた、同国のエドヴァルド・グリーグの1世代あとに属する作曲家で、グリーグの作風を真正面から継承した人物、と評されています。

今回ご紹介する「ノルウェー狂詩曲第1番」は、彼の代表作の1つ。ちなみに第2番もあります。

長さはどちらも10分あまり。

第1番は、コチラでお聴きになれます。

3つの部分からなり、それぞれに1つずつ、伝承曲が引用されています。

最初と最後が明るい曲調の舞曲で、真ん中だけもの悲しい歌です。

2つめのもののみ、曲名も判明しました。

1曲目はspringarという、ノルウェーの西部に伝わる3拍子のダンス。

男女のペアで踊るようです。

この狂詩曲で用いられているものに関していうと、3拍子といいつつ、1拍がさらに3つに分割されています。

そのため、私ははじめて聴いたとき、「ノルウェーにもスリップ・ジグがあるのか」と思ってしまいました。

ちなみに、スウェーデンのポルスカという舞曲にも、同種のものがあります。

2曲目は、その名をJeg lagde meg så sildeといいます。

しばしば、I went to bed so late(夜をこめて眠りにつきぬ)という英訳が付されています。

歌詞は、中世から存在する物語詩らしいのですが、内容までは突き止められませんでした。

動画もいくつかアップロードされています。コレがいちばん好き。

3曲目はhalling。ノルウェー東部のHallingdalenという場所が原産の、2拍子のダンスだそうです。

なんでも非常に高速で、踊る側にも演奏者にも、とてつもない技術とタフネスを要求するとか。

ところで、「アイルランド狂詩曲」と同様に「ノルウェー狂詩曲」にも、別の作曲者による同名の作品があります。

もう一方を書いたのは、ヨハン・スヴェンセン(1840-1911)。

名前までそっくりですな。

彼はグリーグと同世代、つまりハルヴォルセンよりも前に活躍した人物です。

実のところ、ハルヴォルセンの狂詩曲は、スヴェンセンから影響をうけて作曲されたもののようです。

用いた伝承曲こそちがえど、陽気なダンスチューンで歌曲を挟む、という構成まで同じ!

さらにさかのぼると、スヴェンセンはフランツ・リストの「ハンガリー狂詩曲」に触発された、とのこと。

スヴェンセンの「ノルウェー狂詩曲」は、第4番まであります。

私はこちらも鑑賞しておりまして、特に第2番は好きなのですが、原曲などはなに1つ分かりません。

これがスヴェンセンの「ノルウェー狂詩曲第2番」。

ハルヴォルセンの「ノルウェー狂詩曲」を聴ける、私の知るかぎり唯一のCDがコレです。

【ヨハン・ハルヴォルセン 管弦楽作品集 Vol.4】
ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ネーメ・ヤルヴィ
録音年:2010、2011年
レーベル:シャンドス

たぶん店頭で偶然これをみかけなければ、私は今でも、この作品を知らないままだったと思います。

「ノルウェー狂詩曲」第1番と第2番のみならず、ハルヴォルセンのオーケストラ曲をほかにも数点、収録しています。

特に最後の「ノルウェーのおとぎ話」なんか、グリーグの「ペール・ギュント」がお好きなかたは、同じような感覚でたのしめるような気がいたします。

指揮者のネーメ・ヤルヴィは、バルト3国のエストニア出身。

クラシック音楽の指揮者の中でも、かなり有名な人物であるらしく、私にいわせれば、北欧の音楽をやらせたら、彼の右に出るものはいません。

こちらは、スヴェンセンの「ノルウェー狂詩曲」4曲を収録したもの。

【スヴェンセン ノルウェー狂詩曲第1番~第4番】
南ユラン交響楽団
指揮:ビャルテ・エンゲセト
録音年:2007年
レーベル:ナクソス