【私とケルト音楽】第七回:音楽レーベル プランクトン/プロデューサー 是松渓太さん 後編

インタビュアー:天野朋美

様々な分野で活躍している方をゲストにお招きし、ケルトにまつわるお話を伺う「私とケルト音楽」。

第七回は前回に引き続きワールドミュージックなど未聴の世界を届けてくれる音楽レーベル「プランクトン」から、プロデューサーとして活躍している是松渓太(これまつけいた)さんです。

今回は是松さんが関わったアーティストとのエピソード、そしてこれからの音楽業界の在り方について教えていただきました。

どうぞお楽しみください。

チーフタンズ・パディは誰よりもアイリッシュ!

――是松さんが関わった海外アーティストのお話が聞きたいです!チーフタンズとのエピソードなんて教えていただけますか…?

是松:チーフタンズは「自国で伝統音楽を演奏するミュージシャン」ではなく、「どうやって自分達の音楽をコンサートホールで聴かせられるものにするか」という事を考えて、成功した人達です。

ロック界でルーツ・ミュージックが流行した時期に影響力のあるミック・ジャガーやスティングとコラボレーションしたという事も成功の要因ですが、時代にマッチしたとしても受け入れられるだけの度量が無いとそういう所には上がっていけなかったんだと思います。

彼らとのエピソードはたくさんありますが、ちょっと言えない話もありますね(笑)。

メンバーの中で最年長のパディは誰よりも元気なのにも関わらず最近健康を気に掛けるようになりまして、日本公演に来た時に彼に血圧計を買ってあげたんですよ。

そうしたら、それから毎朝7時頃に電話が掛かってきて「今日は大丈夫だった!」「昨日より10ぐらい高いんだけど…」と報告が来るようになりました。

それでいて、ライブが始まると誰よりも元気なんです(笑)!

他には…パディはグルメで美味しいお店に行くことが多いですね。

和食はもちろん、この間は気に入った中華料理店に何度も通っていましたね。

そんなパディですが、色々なグルメを食べているにも関わらず、じゃがいも料理が出てくると凄く喜びます!

世界中で色々なプロジェクトで活躍しながら誰よりもアイリッシュなんです。

全員で一つの音を表現するアヌーナ

――2020年のケルティック・クリスマスに出演が決定したアヌーナですが、彼らとのエピソードを教えてください。

是松:アヌーナは2005年に六本木が開催したクリスマス・イベントで来日したのが最初で、初めて見る人にも魅力が伝わりやすかったのでその後も続けて来るようになったのだと思います。

2014年辺りからケルトの綺麗な歌声だけじゃなく、音楽性や考えをもっと伝えていきたいと彼らから要望があり、それからより深く関わるようになりました。

彼らはケルト音楽の中でも伝統音楽ではなく、一般の人でもわかりやすいビジュアルと世界観があり、プロダクションとしてもしっかりしているグループです。彼らは様々な場所でも色々な方法で観客を楽しませることができるので、僕自身、彼らと関わることでプロモーターとして成長させてもらいました。

以前、ケルティック能“鷹姫”というプロジェクトを一緒にやったのですが、間違いなく今まで僕が携わった全ての仕事の中でベストのプロジェクトになりました。アーティストの持っているものだけを提示してお客さんに来てもらうというのはなかなか難しいため、こちら側でどうやって日本人に興味を持ってもらえるか考えるのですが、それに加えてアーティストにとってプラスになるかどうかも重要なポイントです。

企画を考えて無理矢理押し付ける形では上手くいかず、アーティストの魅力も伸ばすことができ、彼らにとって喜びがある企画じゃないと意味がないんです。

そういう意味では鷹姫はそれが叶った企画と言えるんじゃないですかね。アヌーナの声の魅力、アート性、アイリッシュとしてのイェイツから続いてくるもの、そして日本との繋がり。能のこの世のものではない幽玄の世界という表現がアヌーナが普段やっている事と合致したんですよね。

リーダーのマイケルも今までの最高の仕事の中の一つだと話してくれて、あのプロジェクトが終わった後も大学へ行って原作の研究をしたり、いまだに勉強を続けているんです。

アーティストの持っている魅力を活かして、いかに間口を広げていくかを考えることは重要な仕事です。

最近アヌーナがレパートリーにしている“もののけ姫”はマイケルと僕で相談して決めたものですが、単なる人気がある曲だから選んだのではなく、アヌーナの世界観を伝えていくのにぴったりな曲だと思ったから選んだんです。

それが出来るのも、マイケルがアヌーナというグループを生かすために日本でどんなことが出来るか一緒になって考えてくれる人だからだと思います。

――アヌーナのリーダーであるマイケルはどんな方ですか?

是松:マイケルとは毎日のようにメールしています。

彼はいかにもアーティストというイメージの、個性的な性格の持ち主です。

アヌーナのメンバーはマイケルの性格をよく理解し彼を尊敬していて、マイケルが表現したいことを一つの声、一つの楽器となって出しています。

日本でもANONAなど、アヌーナのカバーグループがいくつかありますが、そういった一つになる感覚が味わえるからこそだと思います。

彼は日本を気に入っていて、日本的な研ぎ澄まされた場所や建物に興味があったり、日本食や日本酒をアートととらえていて、出汁の違いや旨味もわかります。

毎日湖で泳ぐ習慣があるので、日本の海で泳ぎたいと言っていますが、来日は冬が多いので残念ながら叶っていません(笑)。

自然と一体になる感覚を持つことは彼にとって大事で、音の中にも彼の体験は反映されるのでオフの時にも彼らにとってインスピレーションになる場所に行くようにしています。

柔らかい物腰と強い信念の持ち主…光田康典

――ゲーム音楽コンポーザーとして有名な光田康典さんと是松さんがお仕事されていると聞いて驚きました!

是松:光田さんと出会ったきっかけはアヌーナで、ミュージックプラントの野崎さんからのご紹介でした。

ツイッターで光田さんがアヌーナの事をツイートしていたのを偶然見て、コンタクトを取りたいと思っていたタイミングで野崎さんから「光田さんという作曲家の人がアヌーナが好きみたいなんだけど…」と連絡がありまして、「今度来日するのでぜひ!」と繋いでもらいました。

リーダーのマイケルと光田さんは出会ったその日に意気投合し、ニンテンドーswitchのゲームソフト“ゼノブレイド2”の楽曲のレコーディングが決まりました。

その後ゲームの評判もよくゼノギアス20周年のリバイバル企画でもアヌーナに声がかかり、アイルランドでのレコーディング、その数か月後に日本でのコンサートが実現しました。

余談ですが最初にミュージックプラントの野崎さんがアイリッシュバンドのルナサを見つけた時に、一緒にいたのは光田さんだそうです。

二人が仕事でアイルランドに行って、その時入ったパブで演奏していたのがルナサの前身のバンドで、それで野崎さんは日本でルナサを呼ぶことになったそうです。

――すごい裏話ですね!是松さんから見た光田さんはどんな印象ですか?

是松:光田さんは良い音楽やミュージシャンにリスペクトを持っていて、素晴らしいものを世の中に紹介したい気持ちを強く持っています。

アヌーナの声をそのままゲーム内で使用できるなど、ゲーム音楽の質が技術的に上がり、そういうものを活用して人々に良いものを紹介しているんです。

また、光田さんは“やると決めたらやる人”だと思います。作曲家の方は依頼されたものを作る職人的な面があると思うのですが、光田さんは表現者でもあるので、音として形にしたいものが明確にあって、そのために必要なものがあればどこまでもそれを求めていきます。

物腰が柔らかく誰にでも分け隔てなく接する優しい人なんですけど、譲らない所は絶対に譲らない、人間としてとても強い人です。

ゼノギアスのコンサートは光田さんの熱意や思いや強さ、人柄が全員に伝わっていた現場で、あれだけの企画が出来るのは会社発信ではなく光田さんが中心になってやっていたからだと思います。

新たな音楽業界の在り方

是松:特に光田さんを凄い人だと感じるのは、作曲家でありプロデューサーでありアーティストでもある上に、会社を経営している所です。

経営者とアーティストは違う頭の使い方をしなければいけないので、それを一人でやっているのは本当に凄い事です。

アーティストやミュージシャンは時として社会性に欠けていたり、人と違う感覚を持っているからこそ人にインパクトを与えられる表現ができるという部分があると思います。

そういったアーティスト性と経営能力を両立させるのは非常に難しい事です。

経営サイドで考えても、1970年頃から日本の音楽業界を作ってきた、強いバイタリティと個性を持った先達者たちと同じやり方は今の僕たちの世代にはとても真似できないし、そもそもレコード自体が売れない時代になっていますしね。

だから、今の我々の世代は、今の時代に、我々の個性でやれるやり方を探していかなきゃならないんです。

そういう点では光田さんのやり方はすごく参考になります。

経営者だとある程度表現を我慢しないといけなかったり、お金のためにやらなきゃいけないことがあると思うのですが、光田さんは表現したいものを強く貫いたままで会社を経営しています。

僕は一時期、この業界に向いていないんじゃないかと悩んでいました。

考えすぎて自分にストッパーを掛けることがあったり、物事を突き抜けて力技でやり通したりもできない。

だけど、光田さんのようなやり方だったら、もしかしたら自分にもできるんじゃないかって思ったんです。

光田さんのような人が増えたなら、音楽の力が弱くなっている今の世の中でもまだやれることはあるし、これまでの世代とは違う音楽の発展の仕方があると思うんです。

日本のアイリッシュ界でも、アイリッシュフルート奏者の豊田耕三さんなど今活躍している同世代の人たちは先達のアイリッシュ・プレイヤー達とはまた違うアプローチでこのジャンルを広げています。

この世代が10年経った時、業界が元気でやっているといいなという望みがありますね。

(おわり)

音楽レーベル プランクトンからプロデューサーの是松渓太さんをお迎えした第七回「私とケルト音楽」、いかがでしたか?

2020年のケルティック・クリスマスのゲストは、アヌーナとザ・ハイキングスの競演です!

まさか日本でザ・ハイキングスに会えるとは…今から楽しみですね!

3月にプランクトンのホームページにて詳細が発表されますので、ぜひチェックしてみてください。

【Profile】

ゲスト:是松渓太(これまつけいた)
プランクトン/プロデューサー
http://plankton.co.jp/xmas20/index.html
インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
ケルトを愛するシンガーソングライター、やまなし大使。
2019.11.9セカンドアルバム”Songs for Braves蕾の目覚めを信じて“をリリース
https://twitter.com/ToMu_1234

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