Sylvain Barou & Ronan Pellenツアーを振り返って

12月2日から2週間、初来日して日本各地で演奏をした2人のフランス人アーティストとの体験を、ツアーコーディネーターのhataoが振り返ります。

ツアーに関わった皆さんに感謝

フランスの超絶フルーティスト、シルヴァン・バルー Sylvain Barouと相棒のシターン奏者ロナン・ペレン Ronan Pellenの初来日ツアーが無事に終了しました。

ご来場くださった各地の皆さんや、協力してくださった会場及びスタッフやゲストの皆様に改めてお礼申し上げます。

Sylvain BarouとRonan Pellenとは

彼らを知らない読者のために少し紹介すると、シルヴァンはフランスのグルノーブル出身1978年生まれで私と同い年の、いわゆるアイリッシュ・フルート奏者。

同い歳なので呼び捨てにしています、笑。

なおアイリッシュ・フルートはフランスでは木製フルートと呼びます。

彼は14歳でフルートを始めるやメキメキと実力を身につけ、その才能をブルターニュのバンドKornogのメンバーとしても知られるフルート奏者Jean-Michel Veillonに見いだされてブルターニュに移住、ブルトン音楽を学びました。

10代からプロ活動を始め、Comas, Guidewire, Donal LunnyとのTriadなどいくつかのアイリッシュ・バンドやブルトン音楽バンドを経て、近年は興味の対象がインド音楽、中近東の音楽に移り、インドの横笛バーンスリーやアルメニアのドゥドゥクを習得し、そのテクニックをまたフルートに応用している異色の演奏家です。

また、ティン・ホイッスルは言うに及ばずイリアン・パイプスも一級の腕前です。

長年の音楽パートナーを務めるロナンさんはブルターニュ出身。

シターンとはブズーキに1コース足したような見た目の10弦(複弦5コース)の撥弦楽器で、中世に使われていたものを復刻した楽器です。

ロナンさんはシターン奏者としてSkedus、Hamon Martin QuintetやAnnie Ebrelなどと活動するブルターニュ音楽の第一人者でもあり、近年はスコットランドのフルート/パイプス奏者Calum Stewartのバンド・メンバーでもあります。

そして、チェロやフィドル、インドのサーランギー、ヴィオラ・ダ・ガンバも演奏します。

二人とも音楽的な幅広さが尋常でなく、共通のレパートリーとして、ケルト音楽はもちろん、インド音楽、ペルシャ音楽、アラブ音楽やトルコ音楽も得意とします。

東京のコンサートではなんと10カ国もの音楽を演奏し、観客を驚かせていました。

すべてをこなすワンオペツアー

今回のツアーは完全な自主企画で、私hataoが出演交渉、資金面、プロモーション、通訳、ブッキング、CD販売、会計、運転、はては食事や洗濯まですべてこなすお手製公演です。

このようなツアーをするのは3回目になります。

1回目は2010年アメリカ人パイパーDick Hensold氏、2回目は昨年のJean-Michel Veillon氏。

プロのエージェントでもない私が、赤字のリスクを負って、そして自分の活動を差し置いてこうした公演を企画するのは、第一に自分が間近で演奏を見たいからという純粋なる演奏家への敬意と音楽への愛情、そして自分の学びのため、そして日本の音楽ファンにケルト音楽の頂点を見せてあげたいという気持ちからです。

同い年の超人的笛吹き、シルヴァンのこと

シルヴァンのことは、彼が20代の頃から知っていました。

フランスに超絶の若いフルート奏者がいるというのは、アイリッシュ・フルート業界では噂になっていました。

公式なソロCDが出るのは2012年ですから、それまではMy Space (懐かしい)の音源や、ゲスト参加している音源から聴くことができる程度でしたが、当時からその超絶テクニックとセンスの良さは垣間見えていました。

実際に私が彼の演奏を聴いたのは2011年Quimperのケルト音楽フェスで、Guidewireの演奏でした。

彼はずっと、録音かビデオで見る遥か遠い存在だったのですが、一昨年の夏にアイリッシュ・フルート職人のPol Jezequel氏の家を訪ねたときに、近所に住むシルヴァンがたまたま家にいて、会いに来てくれました。

この時はまだツアーの構想はなかったのですが、昨年のJean-Michelのツアーの成功により、私の意欲が膨らみ、すぐに来日ツアーをオファーした次第です。

これまで、彼の生演奏は1度しか見たことがありませんでしたから、眼前で見てみたいという好奇心が行動を起こさせました。

ツアーを振り返って

さて、今回のツアーのことを忘れないうちに、簡単に振り返っておきたいと思います。

彼らの滞在は2週間、ツアーは大阪から始まり、京都、名古屋、愛知県新城、松本、宇都宮、東京2公演の合計9公演、ワークショップは2回ありました。

かなり忙しいツアーですが、彼らが、なるべく多くの回数を演奏したいという希望があり、平日の、しかも地方の公演は集客が難しいことも伝えた上での決行でした。

各地の協力者の皆さんのおかげで、彼らに恥ずかしい思いをさせないだけのお客さんに来ていただけました。

平日のライブの集客にはかなり苦労されたことと思います。本当に感謝しています。

ツアー中の感想から

彼らの音楽を見て思ったことを、時々ツイッターにつぶやいていましたので、とりとめもない散発的な内容ですが、それを紹介することが、新鮮な気持ちを伝えるのに最も効果的だと思います。

僕はかねてより世界の民族文化や言語に深い興味があったのですが、彼の音楽を見ていると、一人の人間がいったいどれほど多文化的でありえるのかということを考えさせられます。

彼ら二人は世界中を旅し、世界の音楽家と交流し、世界の美食を知っています。

同じ時間だけ生きてきたのに、こんなに広く・深く学び経験を積んだ彼らがとても羨ましく、そしてまた地球には、本当に素晴らしい物事がたくさんあるんだなあと思わずにはいられません。

シルヴァンたちから学ぶべきことが本当に多いです。

笛マニアの僕が言うのだから、間違いないのです。

昨日だって、比べられるのが目に見えてるのに、前座なんかしたくなかった。

でも僕の100倍上手い人がいるってことを、ファンや生徒さんに知って欲しい。

人生そこそこで満足しないでほしい。

この世の最高とは何かを、知ってほしい。そして知りたい。

というか、これを観ないでどうするよ!?

食事も、旅も、ライフスタイルも、趣味や娯楽も、すごいものを体験したら、自分の価値観の天井が吹き飛んで、スケールが変わる。

エベレストを見たら、富士山ってまだ低い方なんだなって思うでしょう。

音楽でそういう体験をして欲しいんです。

一緒に見て回った日本の美しいもの

演奏以外のプライベートでは、観光もたくさんして、日本的な景色をたくさん見せてあげることができました。

初日は「がんこ寿司」の懐石料理を食べ、翌日は有馬温泉に行き雅楽の龍笛奏者の芳村直也さんと奥様の演奏を見せていただき装束を着て記念撮影、3日目は奈良に観光に行き、東大寺や春日大社を見ました。

また、京都の銀閣寺、金閣寺、琵琶湖、愛知県蓬莱山の紅葉、松本城、宇都宮市の大谷寺、東京では新宿も見ました。

彼らはとても紳士でした。

ミュージシャンは酒を飲みすぎる傾向がありますが、ツアー中に酒を飲むことはまれで、おかげで私は早く休むことができ、運転のための体力を確保できました。

運転のときにはロナンさんは助手席に座り、ナビ役をしたり、いろんな話をして退屈しないように気遣ってくれました。

ロナンさんは大学で日本語を2年間学んだということで、日本文化が大好きで、日本人である私すら見たことがない小津安二郎や黒澤明の古い映画の話を聞かせてくれました。

滞在中は少しでも日本語を上達させようと、常に日本語の文法書を読んでいました。

運転中に文法の微妙な違いの質問を投げかけられるのは困りものでしたが。

松本から宇都宮に移動する日の朝、「今日はオヤジを見に行く!」と言うので、「オヤジって中年男のこと?誰?」とよくよく訊いてみると「大谷寺」という宇都宮の寺院だったのには、笑いました。

フランス語の観光ガイドにはOyajiと書いてあったのです。

その大谷寺の石窟仏像は大変素晴らしく、私も思わぬ幸運でした。

シルヴァンは辛いものが大好きで、私の自宅に滞在中は毎日韓国料理や四川料理を振る舞ったのですが、それをとても喜んでくれました。

バーミヤンで激辛ラーメンを注文して、オプションの山盛りの唐辛子を掛けて食べていたのには、周りの一同みなびっくりしていました。

ふたりとも日本の文化、食事、自然がとても気に入りました。

日本食であれば何でも興味をもって食べ、特にコーヒーよりも緑茶をたくさん飲みました。

ロナンさんは温泉が大好きになり、機会があれば温泉に行きたいといっていました。

シルヴァンにはタトゥーがあり、結局入浴を果たせなかったのは私には残念でした。

このツアーのために寄付くださった方、そして東京で最後のコンサートをした日に、高速代金の足しにしなさいと1万円を握らせてくださったご婦人がいました。

お気持ち、ありがたく頂戴し、彼らの観光や食事に使わせていただきました。

最後の日には少々感傷的な気分になりながらも22時に東京を発ち翌朝9時の関空発の帰国便を追いかけて東名高速をひた走りました。

体力的に非常にシンドくて、疲れが癒えるのに3日はかかりましたが、それよりも事故のリスクもありますし、このような危険なスケジュールは二度と計画するまいと誓いました(こうなることはわかっていましたが、彼らの多忙な仕事の都合でやむを得ずこのようなスケジュールになったのです)。

関西空港に着くや国際線ロビーでラップトップPCを取り出してツアーの会計締めを済ませ、その場で電子送金をしてすべての任務を終え、彼らを見送りました。

充実のツアーでした

普段自分も台湾や韓国や中国では現地の友人に大変にお世話になっているので、このようなツアーをすると、彼らの苦労や思いが身に沁みて分かります。

このツアーは自分は全然儲かりませんし(そもそも自分が儲けることよりも稼がせてあげることを考えています)、体力的に、時間的に非常に負担が大きいのですが、達成感が大きく、また、ヨーロッパでの人の繋がりが強くなるので、キャリアの上でも意義があることだと思っています。

ただ昨年のJean-Michel、今回のシルヴァンと、あまりにもすごすぎるフルーティストを呼んでしまったので、次に呼びたい人がまったく思い浮かばないのが、少々頭の痛い問題です。

神技のようなシルヴァンの演奏を目撃した後、自分はどうやって生きていけばいいのか…と途方に暮れますが、それでも自分のすべき仕事、自分にしかできない仕事というのはありますから、それをやるのみです。

このように打ちのめされるような体験は、やっぱり素晴らしいと思うのです。

再来日は?

彼らは本当に日本が気に入り、また来たいと言っていました。

ロナンさんは今度までに日本語を勉強して上達するつもりだそうです。

来年は何枚ものCDリリースを予定していると聞いていますし、彼らに新たなレパートリーが増えて、お互いの人生の波長が合えばまた、という話になるかもしれません。

その時は、またお知らせいたしますので、必ず見に来てくださいね!

関連記事

https://celtnofue.com/blog/archives/4348

https://celtnofue.com/blog/archives/4343

https://celtnofue.com/blog/archives/4237

https://celtnofue.com/blog/archives/2597