アイリッシュ・アメリカンのアイルランド音楽

島国の日本人にとって、アメリカは大きな存在感があります。

太平洋をまたいだ大陸にある、大国という印象です。

一方で、同じ島国のアイルランド人にとっても、大西洋をまたいだ大国がアメリカなのです。

筆者は以前に、アイルランドの西の端にある有名な観光地であるモハーの断崖から海の彼方を見たことがあります。

その遥か向こうにアメリカ大陸があり、19世紀に何百万人というアイルランド人が荒波を越えてアメリカを目指したストーリーが現実のものとして想像できました。

ぼろぼろの移民船でアメリカに渡ったアイルランド人たちは、自分達の心のよりどころとしてアイルランド音楽を守り、演奏し続けてきたのです。

アイルランドからやってきた移民たちの多くは、東海岸の大都市に定住しました。

シカゴ、ボストン、ニューヨークではアイルランド人のコミュニティが発達し、アメリカでもっともアイルランド音楽が盛んに演奏される都市となりました。

19世紀のシカゴで、フランシス・オニール Francis O’Neilが友人の音楽家たちから曲を収集して出版したアイルランド音楽曲集”O’Neill’s Music of Ireland”は、現在も版を重ね、アイルランド音楽のもっとも権威のある楽譜集となりました。

また、1920~30年代にアメリカで録音されたSP盤レコードは、当時のアイルランド音楽の最も優秀な演奏家によるもので、現在まで本国アイルランドに影響を与え続けています。

たとえば、フルートのジョン・マッケナ John McKennaや、フィドルのジェームズ・モリソン James Morrison、マイケル・コールマン Michael Colemanが有名です。

このように、アメリカはアイルランド音楽の優秀なプレーヤーを輩出しており、1975年にフィドルのリズ・キャロル Liz Carrollがアメリカ人として初めてオール・アイルランド・チャンピオンに輝いてから、これまでフィドルのアイリーン・アイヴァース Eileen Ivers、ホイッスルのジョーニー・マッデン Joanie Madden、フルートやバンジョーのシェーマス・イーガン Séamus Eganをはじめとし、毎年、数多くのチャンピオンを出し続けています。

アメリカでスター的なプレーヤーとなった彼らが結成したCherish the ladies、Solas、Green fields of Americaといったバンドは、アイルランドでも人気が高いのです。

Solasは、アイルランドからアメリカへの移民をテーマにしたレパートリーを得意としています。

彼らのほかにも、伝統的なスタイルでアイルランド音楽を演奏するアイルランド人やその子孫が、また移民の国アメリカらしくあらゆる人種の人々が、アイルランド音楽を演奏し、伝統楽器を作り、この音楽を支えています。