【デンマーク民謡組曲 】オーケストラアレンジで聴くケルト・北欧の伝統音楽

ライター:吉山雄貴

デンマーク民謡組曲

第1回第2回は、アイルランドやスコットランドと関係のある楽曲をとり上げました。

今回は北欧へ飛びます。

紹介するのは、「デンマーク民謡組曲」。

作曲者はパーシー・グレインジャー(1882-1961)。

オーストラリア出身です。

作曲家としてだけでなく、ピアニストとしても活躍しました。

私は彼の作品集をいくつかもっておりますが、それらのライナーノーツが口をそろえて、次のような伝記を語っています。

いわく、グレインジャーは当時技術革新がいちじるしかった録音機器を片手に、イギリスや北欧の片田舎に分け入って、伝承曲を片っ端から録音しては、それらを楽譜にのこした、と。

伝統音楽の畑で、彼の名をまったくといっていいほど耳にしないことが、ふしぎにさえ思われます。

そのほかにも、彼にまつわる武勇伝は、枚挙にいとまがありません。

ほんの片手間で作曲した楽譜がアメリカ合衆国で空前の大ヒット。

一夜にして巨額の印税が舞いこむも、本人は濡れ手であわをつかむ結果にフクザツな心境だった、とか。

民主主義者たることをほこりに思い、第1世界大戦では自ら志願し、1兵卒として戦った、とか。

ノルウェー最大の作曲家エドヴァルド・グリーグをして、「私のピアノ協奏曲はノルウェー人でさえマトモに演奏できない代物なのに、こやつカンペキにひきおった」と言わしめ、彼自ら指揮をしたコンサートで、独奏者に指名された、とか。

「天は二物を与えず」といったな。

あれはウソだ。

かくも輝かしき業績を裏づけるかのように、私が鑑賞することのできた彼の作品のほとんどは、イギリスなどの伝承曲を、オーケストラや吹奏楽やピアノ独奏にアレンジしたものでした。

代表作である「リンカンシャーの花束」も、イングランドのリンカンシャー州で、グレインジャー自ら採集した伝承曲を元にした、吹奏楽曲です。

作品の多くはイギリスで集められた楽曲にもとづくもので、比較的すくなめな北欧の旋律を用いたものの1つが、この「デンマーク民謡組曲」です。

名前のとおり、デンマークの民謡を集めて組曲にしたもの。

長さは全体で15分あまり。

以下の動画で全曲、視聴できます。

曲目はコチラ。

  • 第1曲:The Power of Love(愛の力)
  • 第2曲:Lord Peter’s Stable-Boy(ピーター卿の馬丁)
  • 第3曲:The Nightingale and the Two Sisters(ナイチンゲールと二人の姉妹)
  • 第4曲:Jutish Medley(ユトランド民謡メドレー)

はじめの3曲は、用いた伝承曲の名前を、そのまま曲名にしています。

終曲は、Choosing the Bride(花嫁選び)、The Dragoon’s Farewell(竜騎兵の別れ)、The Shoemaker from Jerusalem(エルサレムから来た靴屋)、「Hubby and Wifey(夫と妻)の4曲からなるメドレーです。

またこの曲のみ、ピアノ版もあります。

いずれの伝承曲も、デンマーク語の原題があるはずです。

しかし残念なことに、それは判明しませんでした。

用いられた歌すべてについていえるのは、メロディがたいへん甘いということです。

それはもう、ひと昔前の歌謡曲のよう

グレインジャーのシュミなのか、はたまたデンマークの人々のし好なのか……。

特に、The Shoemaker from Jerusalemなど、ロマンチックな題名と相まって、すごいセンチメンタルな気分にさせてくれます。

で、その貴重な「デンマーク民謡組曲」を収録している、さらに貴重な1枚がコレです。

というか、私は曲名に惹かれてこのCDを手にとり、それではじめてグレインジャーの存在を知るに至りました。

【グレインジャー 愛の力(管弦楽曲集)】

スロヴァキア放送交響楽団
指揮:キース・ブライオン
録音年:1996年
レーベル:ナクソス

この盤、「デンマーク民謡組曲」以外の収録曲も、充実しています。

まずは、Ye Banks and Braes o’ Bonnie Doon。

これは同名のスコットランド民謡を、オーケストラ用に編曲したもの。

原曲は、「思ひいづれば」という題で、明治時代にはすでに日本でも知られていたようです。

それから、Irish Tune from Country Derry。これはDerry Airを、弦楽合奏に編曲したものです。

この他にも、主にイングランド伝承曲のアレンジ多数。

念のため申しそえますと、彼ちゃんとオリジナルの作品も書いてますよ。

「早わかり」とか「戦士たち」とか。

残念ながら、私にはあたかも前衛芸術のように聞こえ、まったく理解できませんでしたが。

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